原題 | KING ARTHUR: LEGEND OF THE SWORD |
---|---|
制作年・国 | 2017年 アメリカ |
上映時間 | 2時間06分 |
監督 | ガイ・リッチー(『コードネームU.N.C.L.E』『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』) |
出演 | チャーリー・ハナム(『クリムゾン・ピーク』『パシフィック・リム』)、ジュード・ロウ(『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』)、アストリッド・ベルジュ=フリスベ、ジャイモン・フンスー、エイダン・ギレン、エリック・バナ |
公開日、上映劇場 | 2017年6月17日(土)~丸の内ピカデリー・新宿ピカデリー、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、OSシネマズミント神戸 他全国ロードショー |
~「ケルト」の英雄、その誕生秘話を大胆にアレンジ~
日本では「忠臣蔵」、欧米では「アーサー王」。誰でも知っている物語とあって、映画でよく取り上げられる題材だ。まぁ、昨今の日本では、「忠臣蔵」と言っても、ピンとこない若者が多いかもしれないけれど……。その「忠臣蔵」は18世紀初頭の江戸・元禄期に実際に起きた赤穂事件をドラマチックに脚色したものだが、「アーサー王」の方は中世の薄暗いベールに包まれた〈史実〉をベースに伝説化された物語。とりわけ発祥の地、イギリスでは頻繁に映画や舞台でアップされている。
『キング・アーサー』――。そのものズバリのタイトルに心がときめいた。ましてやイギリス映画界の俊英ガイ・リッチー監督の演出とあって、どんなふうに料理されているのか興味津々。冒頭から巨大すぎるほどの象が銀幕狭しと暴れまくる凄まじい戦闘シーン! おーっ、やっぱり意表を突く「ツカミ」だった。市川崑監督も真っ青になるであろう軽快なテンポのカット割りも健在。その場面展開の早さが山椒のごとくピリリと効いていた。ゲーム感覚といいましょうか、この「ガイ・リッチー節」、ぼくは大好き!
本作はアーサー王の誕生秘話で、独特な解釈で描かれていた。もっとも、アーサー王は実在しない伝説上の人物なので、どう斬ろうがまったく自由。この手の物語はある程度、基本ラインを押さえておけばいいと思う。アーサー王伝説をご存知ない方が結構、おられるようなので、簡単に説明しておきたい。断っておくが、ぼくはアーサー王の専門家ではない。しかし、この物語がライフワークにしている「ケルト」の世界から派生したもので、これまでアーサー王ゆかりの地を何度も訪れた。その取材成果を『イングランド「ケルト」紀行~アルビオンを歩く』(2006年、彩流社)の中にたっぷり盛り込んでおり、『「アーサー王伝説」を旅する』との演題で講演会も各地でいろいろ行っている。
そういう実績を踏まえ(笑)、まずは歴史的に見てみると――。古代、イギリス本島の南部(現在のイングランドとウェールズに相当)にはケルト系ブリトン人が定住していた。そこにローマ帝国が侵入し、紀元43年、属州ブリタニアが生まれた。そのローマも帝国内部の混乱や異民族の侵入で弱体化し、410年、イギリス本島から撤退した。ローマ支配から解放されたブリトン人は大喜び。しかしそれもつかの間、北ドイツ周辺からゲルマン系アングロ・サクソン人が渡来した。
この時期から、イギリスでは「暗黒時代」と呼ばれている。侵攻してきた異民族にブリトン人は徹底抗戦した。ケルトVSゲルマン。こんな構図だ。長らく泥沼状態が続いたが、最終的にアングロ・サクソン人によってブリトン人は西へ西へと追い詰められ、ウェールズやコーンウォール(イングランド南西端)に押しやられた。一部は対岸のフランス北西部ブルターニュへと逃れていった。勝者アングロ・サクソン人の片割れ、アングル人の名をとって、「アングル人の国(Angle land)」、つまりイングランド(England)の名が生まれた。
この攻防の中で、ある勇猛果敢なブリトン人の戦士(誰かは不明、複数の集合体かもしれない)が美化され、民間伝承とも結びつき、1人のヒーローが誕生した。それがアーサー王である。のちにフランスの吟遊詩人によって、恋愛の要素が加味され、さらに12世紀になると、中世の騎士ロマンとして「アーサー王伝説」がヨーロッパ中に広まった。とりわけ十字軍の遠征では、アーサー王がキリスト教国の盟主に奉られた。反キリスト教的な「ケルト」のシンボルであったアーサー王が真逆の方にシフトさせられるなんて……。まぁ、強いものを利用してナンボ。歴史ってオモロイです。そして1485年、イングランドの騎士トーマス・マロリーが著した『アーサー王の死』によって、〈伝説〉が確固たる〈物語〉として決定づけられた。
それによると、アーサーの誕生からして驚かされる。ブリテンの王ユーサー・ペンドラゴンがコーンウォールを訪れた際、地元の王(諸侯)の妃イグレーヌにひと目惚れし、魔術師マーリンの力で夫に化けて妃と一夜を過ごした。ズルいやっちゃ! あかんがな。その時に生まれた子がアーサー王。つまり不義の子なのである。とにかく不道徳極まりない(笑)。映画ではそのことには触れられていなかったが……。
アーサーはマーリンに育てられ、帝王教育を授かり、たくましい青年に成長する。一方、映画では、父王ペンドラゴンが弟のヴォーティガンの謀反で殺され、幼いアーサーが命からがらロンディニウム(現在のロンドン)へ逃れ、スラムの売春宿で育てられる。肝心のマーリンが登場しない。アーサーには、やはりマーリンが寄り添ってほしかった。『悪名』でも、朝吉の傍にロートルの貞(のちに清次)がいたからこそ物語が輝いたのだから。
ジュード・ロウ扮する極悪非道な暴君ヴォーティガンが、史実として実在していたかどうかは不明だが、いくつかの史料にはブリトン人の諸侯として名が残っている。それも自軍を強めるため、ヨーロッパ大陸からサクソン人を傭兵に招き入れ、それがアングロ・サクソン人の侵入を許す発端となった。だからこの人物、暴君かどうかは知らないけれど、すこぶる評判が悪い。ヴォーティガンとペンドラゴンが兄弟とする説はこれまで聞いたことがない。映画で2人をこんな形で結びつかせたのはなかなか面白い発想だと思う。
『アーサー王物語』では、アーサーが15歳の時、岩に突き刺さっていた剣を抜いたことで、ブリテンの王と認められる。この剣が聖剣エクスカリバーと思われているが、実はちゃうんです。よく間違うてはります。のちに湖の妖精ヴィヴィアンから贈られてくる剣、それがエクスカリバー。本作では、岩の剣=エクスカリバーにしていた。その方が映画的にわかりやすいので、あえてそうしたのかもしれない。
映画では、アーサーにつきまとう(サポートする?)メイズという魔女(アストリット・ベルジュ=フリスベ)の立ち位置が不鮮明だった。ある時は魔術師マーリンのようであり、またある時は妖精ヴィヴィアンのようでもある。いっそのことマーリンとヴィヴィアンをちゃんと登場させればよかったと思う。ちなみにアーサー王の異母姉モルガンも魔女みたいな存在。この物語、こんなけったいなキャラクターばかり登場する。
本作は父王を殺した憎き叔父への復讐譚となっていた。ラスト、アーサー王に仕える騎士たちが坐る円卓が王宮キャメロットに設えられるシーンが映っていた。ここから、いよいよアーサー王物語が始まるのである。
湖の騎士ランスロット、パーシヴァル、ガウェイン、トリスタンら魅力的な円卓の騎士、平和のシンボルとなったキャメロット、アーサー王の妃グイネヴィアとランスロットとの不倫、聖杯探しの旅、アーサー王とモルガンとの間にできた邪悪なモードレッドとの一騎打ち、そして黄泉の国「アヴァロン」への旅立ち……。話はてんこ盛り。おそらくこの映画はシリーズ化されると思われるが、これらのエピソードをどう盛り込んでいくのかが気になる。
アーサー王伝説はイギリスの各地に息づいている。中でもコーンウォールには、アーサー生誕の地といわれるティンタジェル城、聖剣エクスカリバーが投げ込まれた湖ドーズマリー・プール、最後の決戦の場スローター・ブリッジなど、アーサー王ゆかりのスポットが点在している。毎年9月、「ゴーゼス・ケルノー」(コーンウォールの集い)というイベントが催されている。圧巻はフィナーレに行われる儀式だ。エクスカリバーが掲げられ、「アーサー王はいまだ死なず。再びこの世に蘇えるだろう」とコーンウォール語(ケルト語の一種)で参加者全員が叫ぶのである。これぞケルト人魂!コーンウォールではないが、ウィンチェスターの大聖堂には円卓(後年、作られたもの)が飾ってある。
フランスのブルターニュもアーサー王伝説の宝庫だ。ランスロットが育ったコンペル湖(実際は池)やマーリンとヴィヴィアンが密会していた場所、聖杯探しの旅の舞台となったポンパルの森など、あちこちにゆかりの場所がある。まさにアーサー王は「ケルト」の守護神的な存在で、21世紀の現在でも「アヴァロン」で〈休んでいる〉のである。チャーリー・ハナム扮する若きアーサー青年がこれからどんな王になっていくのか本当に楽しみだ。
蛇足だが、アーサー王を題材にした映画を挙げると……。『円卓の騎士』(1953年)、『エクスカリバー』(1981年)、『トゥルー・ナイト』(1995年)、『キング・アーサー』(2004年)などなど。ミュージカル映画では『キャメロット』(1967年)、アニメではディズニーの『王様の剣』(1963年)、コメディーでは『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(1971年)。アーサー王外伝では『トリスタンとイゾルデ』(2004年)などがある。何といっても一番のおススメ作はジョン・ブアマン監督の『エクスカリバー』だ! これを観れば、アーサー王伝説の大筋がすべてわかる。
今回は、映画とは直接、関係のない内容になってしまった。申し訳ない。でも、アーサー王についてのバックグラウンド(知識)をほんの少し頭に入れて映画を観れば、さらに面白みが増すと思う。ファンタジーの源ともいわれるアーサー王物語を満喫してください!
(武部 好伸:エッセイスト)
公式サイト⇒ http://king-arthur.jp
© 2017 WARNER BROS. ENT. INC., VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED AND RATPAC-DUNE ENT. LLC