原題 | A Monster Calls |
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制作年・国 | 2016年 アメリカ・スペイン |
上映時間 | 1時間49分 |
原作 | 原作者・脚本:パトリック・ネス |
監督 | J.A.バヨナ |
出演 | ルイス・マクドゥーガル、フェリシティ・ジョーンズ、シガニー・ウィーバー、リーアム・ニーソン(as怪物) |
公開日、上映劇場 | 2017年6月9日(金)~ TOHOシネマズ みゆき座、TOHOシネマズ (梅田、なんば、二条、西宮OS)、神戸国際松竹 他 全国ロードショー |
悲しみの迷路で息を潜めていた少年が怪物と出会う。
魂の救済をめぐる、切なく胸打つダーク・ファンタジー。
英国の女性作家シヴォーン・ダウトの未完の遺稿を、米国の男性作家パトリック・ネスが完成させ、英国文学史上初カーネギー賞とケイト・グリーナウェイ賞をW受賞した同名小説の映画化。監督は、傑作『パンズ・ラビリンス』を手掛けたプロデューサー、ベレン・アティエンサから絶大な信頼を得るJ.A.バヨナ。2016年スペインのアカデミー賞・ゴヤ賞最多9部門に輝いた。初のおばあちゃん役のシガニー・ウィーバーと、母親役のフェリシティ・ジョーンズといった実力派を相手に、複雑な心もようを演じ切ったルイス・マクドゥ-ガルが素晴らしい。
深夜12時7分。悪夢にうなされ、泣きながら目覚めた13歳の少年コナーの前に、不気味な姿形の怪物が現れた。怖がる素振りも見せない少年に、怪物は奇妙な契約を持ちかける。「これから3つの物語を聞かせてやろう。だが、4つめは、お前が真実の物語を話すのだ」と。忍び寄る悲しみの足音に耳を塞ぎ、ただひとりでつらい現実に耐えるしかできなかった少年と、怪物の交流が始まる。
難病を患う母親と2人暮らしのコナーは、昼も夜も母親の病状が心配でならない。授業は上の空で、周囲から孤立。とうとういじめっ子たちに目をつけられてしまう。やがて孤独の暗闇が訪れる12時7分。家の裏手の教会墓地で、何千年も昔から生きてきた巨大なイチイの木の怪物に「ママに手を出すな」「おばあちゃんを追い出してくれ」と、誰にも言えない心の叫びをぶつけるコナー。けれど、怪物が1つ物語を話し終えるごとに、母親は衰弱していくようだった。そんなある日、別の家族と暮らす父親が訪ねてくる。幸せだった家族の時間を取り戻すが、コナーの願いは届かず「愛だけでは暮らしていけない」のだという、父親の言葉に胸が張り裂けそうな思いを味わう。
ママとパパがいれば、それだけで幸せなのに、なぜ、大人は愛だけでは暮らせないのだろう。なぜ、校長先生は、いじめっ子にひどいけがを負わせた自分に罰を与えない? 気難し屋で怒ってばかりのおばあちゃんが部屋をめちゃくちゃにした僕を、ひどく悲しい目で見つめるのはどうして? コナーにはわからない。いや、わかりたくないのだ。目をつむっていさえすれば、現実は見なくてすむ。つらい現実を、無かったことにしてしまえるはずだった。
大人でも、残酷な現実に立ち向かえる勇気を持つことは容易なことではない。13歳のコナーにとってはなおさらだ。だから少年は心を頑なにして、彼を苦しめる得体のしれないものに挑みかかった。それで葛藤を抱え込んでしまうなどと思いもせず。やがて、怪物に追い詰められて最後には真実を話すことになるが、そのことで少年の現実が一変する奇跡が起きるのでもない。それが、私たちが生きるこの世界の真実だからだ。ところで、アニマトロクスとCGからなる怪物(声とモーションキャプチャーをリーアム・ニーソンが演じた)が語る3つの物語(美しく幻想的な人生の寓意)は、手書きアニメーションで描かれていて、想像力豊かな芸術家肌の母親の存在感とリンクする。恐ろしくて切ない映画の余韻は、この母親の愛の温もりで満たされる。
(柳 博子:映画ライター)
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