原題 | DUKHTAR |
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制作年・国 | 2014年 パキスタン・アメリカ・ノルウェー |
上映時間 | 1時間33分 |
監督 | 脚本・監督・製作:アフィア・ナサニエル 撮影・編集:アルムグハーン・ハサン |
出演 | サミア・ムムターズ、サーレハ・アーレフ、モヒブ・ミルザー |
公開日、上映劇場 | 2017年5月20日(土)~テアトル梅田、近日~京都みなみ会館、元町映画館 ほか全国順次公開 |
母として、女として、人間として、
未来を生きるための母娘の逃避行
美しく、力強い映画である。インドやアフガニスタンなどと国境を接するパキスタン北部の山岳地帯は多くの部族が群雄割拠し、均衡を保つために古い因習や掟を厳守してきた。だが、一族郎党を巻き込む流血沙汰が起きると、その解決策の一つとして、幼い娘たちを家財のようにやり取りする婚姻関係が結ばれていた。本作の母親も15歳で父親程の高齢の男に嫁がされ盲従的な日々を送っていたが、今度は唯一の宝物である10歳になる娘が、祖父程の高齢の部族長に嫁がされるとあって、決死の覚悟で逃走を謀る。自分と同じ悲惨な人生を歩ませたくないという娘を想う母の未来へ懸ける強い信念や、執拗な追跡の恐怖、初めて抱く愛情と幸福感――日本で初めて一般公開されるパキスタン映画は、威風堂々としたサスペンスフルでエンタテイメント性の高い感動大作である。
パキスンタン出身のアフィア・ナサニエル監督は、アメリカで教育を受け、現在もアメリカの大学で脚本を教えている。世界では2億5000万人も15歳未満で結婚させられているという児童婚問題に着眼し、実話を基にした脚本を書き上げ、10年がかりで本作を完成させている。ロケーションにこだわり、パキスタンのスタッフやキャストにアメリカの技術者も加わり、今なお危険な情勢のパキスタン北部で撮影を敢行。厳しい自然環境のもと難航した撮影だったが、落ち着いた心情表現で魅了する美男美女のキャストに加え、優美な色彩の衣装や雄大な自然描写といい、カラコルム山脈を背景にした美しくスケール感のある作風はハリウッド映画と比べても遜色ない。
冒頭、青々と神々しいほどの美しい湖を白装束の女性が不安そうにボートで渡っている。エンディングへと繋がる重要なシーンである。次のシーンでは、中心を壁で仕切り、左側で青い衣裳の女性が食事の支度をし、左から黙って入ってきた男性が右側の部屋に座り、女性が食事をさし出す。挨拶もなければ労いや感謝の言葉もない。10歳になる幼い娘は、結婚という意味も分からず、男女が視線を交わせば子供ができると思っている。部族長である父親は、これ以上の流血を避けるため、抗争相手の部族長から娘を嫁がせるよう約束させられていた。父親より高齢の老人にである。
婚礼の朝、母親アッララキ(サミア・ムムターズ)は娘ザイナブ(サーレハ・アーレフ)に美しい王子様と結婚できるからと言い聞かせ、決死の覚悟で逃走する。花嫁を奪われたと怒り狂う相手方は勿論、メンツをつぶされた夫や親族からも「死をもって償わせる!」と執拗な追跡劇が始まる。掟に背く者には死しかない厳しい社会。逃げ惑う母娘が助けを求めたのは、派手なトラックの運転手ソハイル(モヒブ・ミルザー)だった。関わりを避けたいソハイルだったが、仕方なく母娘を追手から救うことに…。
「結婚と共に私の人生は終わった」と寂しく語るアッララキに次第に魅せられていくソハイル。初めての優しさに心が揺れるアッララキ。15歳で嫁いで以来一度も会えない母親に会いたいのと、娘のザイナブを会わせたいと、3人は追手を避けてアッララキの母親に会おうとする。それはとてつもなく危険な再会となってしまう。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://www.musumeyo.com/
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