原題 | 20TH CENTURY WOMEN |
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制作年・国 | 2016年 アメリカ |
上映時間 | 1時間59分 |
監督 | ・脚本:マイク・ミルズ |
出演 | アネット・ベニング、グレタ・ガーヴィグ、エル・ファニング、ルーカス・ジェイド・ズマン、ビリー・クラダップ他 |
公開日、上映劇場 | 2017年6月3日(土)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都他全国ロードショー |
受賞歴 | ※第74回ゴールデン・グローブ賞作品賞ノミネート、主演女優賞(アネット・ベニング)、本年度アカデミー賞ノミネート、脚本賞(マイク・ミルズ) |
~79年カリフォルニア、母と二人の女性が15歳の僕に教えてくれたこと~
誰にだって忘れられない夏がある。それが、異性に囲まれドキドキを覚えた青春のひとコマならば。そして、母親にとっても、そんな思春期の息子と対峙する日々は忘れがたいはずだ。『人生はビギナーズ』では75歳でカミングアウトした自らの父と自分自身の関係を描いたマイク・ミルズ監督。今度は自身の母親をモデルに、思春期真っ只中の息子との家族物語を描いている。70年代に終わりを告げる時代のカリフォルニアを舞台に、当時のカルチャー、音楽にたっぷり浸れる極上の2時間。15歳の僕を取り巻く女性たちの魅力に浸れる女性映画でもある。
24年生まれの母、ドロシア(アネット・ベニング)は、パイロットになりたかったシングルマザー。ハンフリー・ボガードが理想の男性という戦前世代のドロシアが好きな音楽は、ジャズだ。僕ことジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)は40歳の時に産んだ一人息子で、世代間格差が甚だしいのは無理もない。ウッドストック世代が熱狂したロックからもさらに変化し、新世代が熱狂するパンクロックやニューウェイブのバンドが続々登場していた時代、ジェイミーもそんな当時流行りのロックが好きな少年だった。
タバコ変わりにセーラムをふかすドロシアはもうすぐ還暦とは思えないぐらいクールだが、こと息子に関しては母親としての限界を感じ、二人の女性にジェイミーの相談相手になってほしいと頼み込む。一人はドロシアの家で間借りしているパンクな写真家、アビー(グレタ・ガーウィグ)。そしてもう一人は近所に住むちょっとおませな幼馴染、ジュリー(エル・ファニング)で、それにもう一人、元ヒッピーで家の修理他なんでもやってくれる同居人、ウィリアム(ビリー・クラダップ)が加わり、疑似家族のような関係が築かれていくのが面白い。
自分からベッドに潜り込みながら、「セックスすれば友情は終わり」と何もさせてくれないジュリーとのひと夏も強烈だが、ショートヘアを赤く染め、ニューヨーク帰りのイキな年上女性アビーが教えてくれるダンスや聞かせてくれるカセットテープも、僕にとっては刺激的だ。今までコメディエンヌの印象が強かったグレタ・ガーウィグがガラリとイメージを変え、過去に挫折を抱えるアーティスト系女子をキリリと演じている。等身大の役で、輝く10代の姿をスクリーンに焼き付けたエル・ファニングとルーカス・ジェイド・ズマンが、10代特有の男女間の微妙な関係を瑞々しく表現し、親の知らぬところで、子どもはヤキモキしながら成長するのかと見ていて微笑ましい。
女性の心理を知るために、アビーからフェミニズムの本を読むように手渡されたり、母親に精一杯の抵抗をしてみたり、トーキング・ヘッドが好きな15歳の僕の夏は、思い返せば本当にカラフルで輝いていた。それは、戸惑いながらも息子と真正面から向き合ってくれる母がいたから。元祖キャリアウーマンのような逞しさとシングルを貫く一本気なところを併せ持つドロシアの、還暦を前にして息子に悩まされる表情もジンとくる。アネット・ベニングの説得力のある演技は、全母親の気持ちを代弁してくれているかのようだ。当時はお互いに不器用だったけど、今なら言える感謝を精一杯伝える。マイク・ミルズ監督から母への、そして79年カリフォルニアで過ごした愛しき日々へのラブレターのように思えた。
(江口由美)
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