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『スウィート17モンスター』

 
       

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作品データ
原題 THE EDGE OF SEVENTEEN
制作年・国 2016年 アメリカ
上映時間 1時間44分
監督 ケリー・フレモン・クレイグ
出演 ヘイリー・スタインフェルド、ウディ・ハレルソン、キーラ・セジウィック、ヘイリー・ルー・リチャードソン、ブレイク・ジェナー他
公開日、上映劇場 2017年4月22日(土)~シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、29日(土)~京都シネマ、5月6日(土)~シネ・リーブル神戸他全国順次公開
 

~親友が一番の居場所だったのに…。

妄想系ティーンエイジャーが、自分の殻を破るまでをパワフルに描く青春映画~

 
「自分のことが大嫌い!」17歳の主人公ネイディーンが度々口にする言葉は、うん十年前の私自身も常に感じていることだった。自己肯定感の低さは、翻せば自己中心で、周りのことが見えていない証拠。周りが輝いて見え、自分のダメなところばかり目について、挙句の果てには妄想に逃げ込んでしまう。家族よりも恋人よりも、一番大事だったのは親友というティーン女子特有の関係性など、誰もが“あの頃”を思い出す青春映画だ。
 
 
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ネイディーン(ヘイリー・スタインフェルド)は、いつも母親に誉められ、クラスで人気者の容姿端麗な兄、ダリアン(ブレイク・ジェナー)に小さい頃から劣等心を抱いていたが、父親はネイディーンの個性を認めてくれていた。また、学校でいじめられていたネイディーンに初めてできた親友クリスタ(ヘイリー・ルー・リチャードソン)も、ネイディーンが心を許す存在。クリスタさえいれば毎日が楽しかった。だが、幸せな時期は長くは続かず、父が急死し、なんとクリスタもダリアンと恋に落ちてしまう。怒り狂ったネイディーンは、クリスタに自分と兄のどちらかを選べと迫るのだったが…。
 
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頭の回転が速く、威勢の良いネイディーンは、その劣等心ゆえに好きな男子にも告白できず、妄想が渦巻くばかり。物語が進むにつれ、ネイディーンが小さい頃から古い映画(といっても『ツインズ』や『ホームアローン』などの90年代前後のハリウッドコメディー映画だが…)が好きで、SNSでどうでもいい話ばかりしている同級生と話が合わないと感じていることも明かされる。日本の方が周りと合わせて「普通」であることを求められる社会だと思っていたが、今はアメリカでも他人と違うことは居心地が悪いのかと驚かされる。ただ、居場所がないかのように見えた学校にネイディーンの寄り場がきちんとあるのだ。それが、ウディ・ハレルソン演じる風変わりな歴史教師の部屋。ネイディーンに授業のミスを指摘されても、暴言を吐かれても、彼女の中にある純粋で傷つきやすい心を見つめ、いい距離感で見守っている。変り者同士、心が通じ合うところがあるのだろうし、生徒のSOSにきちんと応えてあげられる教師の存在は、家族以外の大人の導き手がティーンエイジャーの助けになることを教えてくれる。
 
 
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一方、夫を亡くして以来彼氏を作りたくてもうまくいかず、しかも娘・ネイディーンの突拍子もない行動を理解しがたい母親の苦悩と、母娘の攻防ぶりもしっかりと描かれる。母親だって完璧ではないし、失敗もする一人の女として愛おしく描かれているのも好印象。こじれた母娘関係の間で、実は必死で二人のフォローにまわり、自分の進路すら人知れず断念した兄ダリアンの本音を知り、ネイディーンは初めて、自分こそが周りが見えていなかった気付く。初めて交わした兄と妹のあついハグは、積年のわだかまりを静かに溶かす感動的なシーンだ。
 
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親友、クリスタに反発し、恋愛未経験のネイディーンが一人で暴走する様子や、好意を寄せてくれている男子との恋の行方など、ヘイリー・スタインフェルド演じるネイディーンの全力妄想ティーンエイジャーから本当に目が離せなかった。80年代ポップスも交えての劇中音楽や、カラフルなファッションなど、ガールズムービー好きにも太鼓判のビジュアルを備えた作品。かけがえのない青春時代の輝きを思い起こさせてくれた喜びが、後からじわりじわりと効いている。
(江口由美)
 
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