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『人生タクシー』

 
       

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作品データ
原題 TAXI 
制作年・国 2015年 イラン 
上映時間 1時間22分
監督 ジャファル・パナヒ
出演 ジャファル・パナヒ
公開日、上映劇場 2017年5月6日(土)~テアトル梅田、5月20日~京都シネマ、5月27日~神戸元町映画館 他全国順次公開
受賞歴 2015年ベルリン国際映画祭金熊賞受賞

 

~車窓から切り取られたテヘランの人々の日常と生活模様~

 

「パナヒさんですよね?」タクシーに乗ってきた男が、運転手の顔を見た途端、嬉しそうな声をあげる…。これは、イランのジャファル・パナヒ監督が、タクシー運転手に扮し、車のダッシュボードにカメラを置いて、テヘランの街を運転し、乗客との会話や、フロントガラスから見える光景をとらえた作品。パナヒ監督といえば、金魚を買いに行く女の子の一日を描いた『白い風船』(’95年)、女性の観戦が禁じられたサッカー場に少女たちが男装して入り込もうとする『オフサイド・ガールズ』(’06年)と、生き生きした映像で観客を魅了し、イランの厳しい統制化に置かれた人々の姿をリアルにとらえた作品をつくり続けてきた。2010年に反体制的な活動を理由に、映画製作を20年間禁じられる判決を受けるが、趣向を凝らして、映画をつくり続け、本作でベルリン国際映画祭金熊賞及び国際映画批評家連盟賞をダブル受賞する。


jinseitaxi-500-1.jpgテヘランでは、タクシーは相乗りが基本らしい。路上強盗と自称する男が、女性教師と乗り合わせて、死刑制度による犯罪の抑制効果について議論したり、金魚鉢を手に、やたら先を急ぐ老女が二人乗ってきたり、バイク事故で大怪我を負った男が泣き叫ぶ妻とともに乗ってきたり、次々と起こるドラマチックな出来事に驚かされる。監督は、終始、穏やかな笑みを浮かべ、淡々と運転を続け、老女達のために自ら本物のタクシーを拾ったり、けが人の男から、遺言を残したいからスマホを貸してくれと頼まれれば、気軽にスマホを貸して、病院まで送り届ける。幼なじみに再会したと思えば、強盗にあった話をされ、その犯人が身近なところで働いている現実を目の当たりにする…。


jinseitaxi-500-4.jpg途中から、監督の姪の小学生が同乗者となり、快活で率直なおしゃべりに車内も華やぐ。姪も、授業で短篇映画をつくると言って、カメラを手に、懸命にファインダーをのぞき、その映像も映し出される。ウェディングドレスに身を包んだ花嫁と花婿が路上に現れ、偶然通りかかったゴミ拾いの少年が、花婿が落とした紙幣を何気なく拾う…。姪が少年に、お金を返すよう説き伏せる会話が微笑ましい。貧富の差、盗みが頻発する社会問題もさりげなくとらえられ、考えさせられる。


jinseitaxi-500-3.jpgドキュメンタリーなのか劇映画なのか判然としないが、人間味豊かで、ユーモアに包まれていて、引き込まれる。タクシーに乗っては降りて行く人々の姿からみえてくるのは、テヘランに暮らす人々の置かれた切実な現実と、その中でも力強く生きていく姿。停職処分を受けた女性弁護士が、ハンスト中の囚人を励ましに行くところだとバラの花束を抱えて乗ってくるが、明るい笑顔からは、権力に屈しない勇気とバイタリティがあふれていた。カメラがとらえた人々の生き生きした表情から、あなたは一体何を感じるだろう。


(伊藤 久美子)

公式サイト⇒http://jinsei-taxi.jp/

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