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『追憶』

 
       

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作品データ
制作年・国 2017年 日本
上映時間 1時間39分
監督 監督:降旗康男  脚本:青島 武、瀧本智行 撮影:木村大作、坂上宗義
出演 岡田准一、小栗 旬、柄本 佑、長澤まさみ、木村文乃、安藤サクラ、吉岡秀隆、
公開日、上映劇場 2017年5月6日(土)~全国東宝系にて全国ロードショー

 

★25年ぶり再会の3人、立場変わって…

 

富山県の漁港で起きた殺人事件で、かつて親友だった幼なじみ3人(岡田准一、小栗旬、柄本佑)が25年ぶりに再会する。だが長い時の流れは、3人を残酷にも刑事と容疑者、そして被害者にと立場を変えていた。なんという…。


それぞれ厳しい人生を抱えてきた3人の生きざまが不器用に交錯する。『駅STATION』(81年)、『居酒屋兆治』(83年)、『鉄道員(ぽっぽや)』(99年)など数々の“健さん映画”で知られるベテラン降旗康男監督と、伝説的カメラマン木村大作氏の9年ぶり、16本目の作品。監督、カメラが“黄金コンビ”ならキャストも岡田准一、小栗旬、柄本佑という人気実力ともトップ級の顔ぶれ。今話題のWBCなら“日本代表”「侍ジャパン」のオールスター・メンバーが、どうしようもない人生の“不条理”の糸を紡いでいく。その営みを木村大作カメラマンが詩情豊かに浮き彫りにする。至福のぜいたく感に浸れる一作だ。


tuioku-500-5.jpgミステリーの歴史も古いが“社会派作家”松本清張は推理小説に人々の営みを描き込んで、多くの読者を引き込んだ。推理小説は元祖・江戸川乱歩、横溝正史時代から人気を集めたが、現実離れした謎解きやトリックは大衆読み物の域を出なかった。その殻を破り、一時代を確立したのが社会派・清張ミステリーだ。そこには社会生活を営み、荒波にもまれながら、もがきつつ生きる庶民の悩みや苦しみ、生きることの哀しさに包まれた。


数多い名作を思い出せば分かる。大ヒット映画『砂の器』の絶望に満ちた父子の放浪旅。名作『点と線』の戦後のどさくさ期にまでさかのぼる殺人の動機…。一見、何気ない日常生活を送る庶民にもひた隠しにしたい秘密があるという事実…。


『追憶』もまた、みんなが秘密を抱え、苦しみ悶えて、生きることの哀しみが色濃くにじみ出る。原案・脚本は青島武。自分に閉じこもりがちな刑事・四方篤(岡田准一)は児童虐待容疑者にも怒りをぶつける熱血刑事だが、妻(長澤まさみ)に対しては心をうまく伝えられず、すれ違うばかり。電話で寂しさを切々と訴える老いた母親(りりィ)にも優しくできない。彼はなぜ愛する人にも心を開くことが出来ないのか?


tuioku-500-2.jpg容疑者の田所啓太(小栗旬)は会社が好転、妻(木村文乃)の妊娠、新居建築と幸せの絶頂にある。だが、彼もまた、なぜか事件の真相を語れずにいる。被害者・川端悟(柄本佑)は倒産寸前の会社と家族のため、金策に奔走していた。そんな彼がなぜ殺されなければならなかったのか?  25年前、親に捨てられた3人は、涼子(安藤サクラ)が営む壊れそうな喫茶店「ゆきわりそう」にひっそりと身を寄せていた。常連客の光男(吉岡秀隆)とともに、5人はまるで家族のような親密な間柄になっていた。だが、そんな彼らの幸せな日々がある日突然、終わりを告げる…。


tuioku-500-4.jpg四方刑事は、田所の無実を信じるが、田所は頑なに口をつぐむばかり。彼は一体、何を守ろうとしているのか? 人が生きることは悲しくつらい。『追憶』の物語にも悲しみが随所に顔を覗かせる。3人の過去に何があったのか…25年の時を経て、壮大な人生のドラマが再び、運命の歯車を回し始める…。男たちが翻ろうされる謎めいた運命に引き込まれる。謎解き部分にはちょっとしたひねりも加えて魅せる。これこそミステリーの醍醐味に違いない。


tuioku-500-1.jpg岡田は「降旗監督と木村カメラマンは私にとってレジェンド。お二人の映画に出演出来ることはこの上なく光栄です」。小栗も「呼んでもらえたことが純粋に嬉しかった」。柄本は「お二人の現場が味わえるのが大きかった」。三者三様に“侍ジャパン”に選ばれた野球選手みたいな感激ようだ。


健さんのイメージに「近い」と言われる四方刑事の岡田准一。「駅~」で健さんが演じた三上刑事の姿がダブる。「駅~」のラストシーン、愛した女の恋人を射殺した三上刑事(高倉)が夜汽車で去っていく印象に残る。その時の健さんの表情と佇まいを、降旗監督と木村カメラマンは「岡田准一の中に見出だせる」という。


健さん亡き後、ポッカリ穴があいた感のある“日本映画の男たち”。その後、菅原文太、松方弘樹、先ごろは渡瀬恒彦と「仁義なき戦い」勢が相次いで亡くなり、すっかり寂しくなった。そんな中『永遠の0(ゼロ)』(13年)で物静かなゼロ戦パイロット、『海賊と呼ばれた男』(15年)で米国メジャーと戦った石油商人を演じた岡田准一は、一時期の健さんのように、寡黙でいながら意志を内に秘める男を演じ圧倒的な存在感を感じさせた。


キャリア長い健さんとは比ぶべくもないが、『追憶』の男たちが人生の悲哀を乗り越えてどう立ち上がるのか、この映画は“次世代の主役”を見出だす役目を果たすミステリーかもしれない。複雑な謎に彩られた人生ドラマには魅力があふれている。


 (安永 五郎)

公式サイト⇒ http://tsuioku.jp/

 (C)2017映画「追憶」製作委員会

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