原題 | PERSONAL SHOPPER |
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制作年・国 | 2016年 フランス |
上映時間 | 1時間45分 |
監督 | オリヴィエ・アサイヤス |
出演 | クリステン・スチュワート、ラース・アイディンガー、シグリッド・ブアジズ、ノラ・フォン・ヴァルトシュテッテン、アンデルシュ・ダニエルセン・リー他 |
公開日、上映劇場 | 2017年5月12日(金)~TOHOシネマズ新宿、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ西宮OS、京都シネマ、6月17日(土)~大津アレックスシネマ他全国順次公開 |
受賞歴 | 2016年カンヌ映画祭監督賞受賞 |
~亡くなった双子の兄の魂を探して。
心の内なる世界を探求する、美しく孤独なミステリー~
『イルマ・ヴェップ』『クリーン』ではマギー・チャンを、『夏時間の庭』『アクトレス ~女たちの舞台~』ではジュリエット・ビノシュと、女優達に新たな挑戦の場を与え、そしてその魅力を引き出してきたオリヴィエ・アサイヤス監督。『アクトレス ~女たちの舞台~』でジュリエット・ビノシュ演じる女優のマネージャーを演じたクリステン・スチュワートも、同作でアメリカ人女優として初めてセザール賞最優秀助演女優賞を獲得し、「トワイライト」シリーズの売れっ子ハリウッドスターから、大きく次のステップへ踏み出した。クリステン・スチュワートのためにアサイヤス監督が脚本を書いたという本作は心の内なる世界を探求する、とても私的でミステリアスな物語。彼女の更なる飛躍を感じ取れることだろう。
パーソナル・ショッパーという職業は、『アクトレス ~女たちの舞台~』でクリステンが演じたマネージャー同様、裏方仕事であることにまず注目させられる。忙しいセレブの依頼主に代わり、高級ブランド店やセレクトショップへ出向いでは、服や靴、アクセサリーを手配するモウリーン(クリステン・スチュワート)。華やかなファッションの世界を映し出しながらも、ウキウキ感がないのは、自分が身に付けるのではなく、あくまでも仕事だから。でも、靴のサイズが同じという依頼主キーラ(ノラ・フォン・ヴァルトシュテッテン)のハイヒールを試着したとき、モウリーンの心の内にあった密かな欲望が刺激される。キーラの家に服を届けたモウリーンが、さっと服を脱いだか思えば、禁じられていた“試着”をして、一人セレブ気分に酔いしれる。自分だけの空間で、欲望が満たされる瞬間の甘美な悦びが、観る側をゾクリと刺激するのだ。
モウリーン自身が双子であり、双子の兄ルイスが病気で数か月前に亡くなったという喪失感を抱えるが故に、常に一人で行動しているけれど、何かをまとっているような雰囲気を醸し出す。やりすぎるとオカルトになってしまう設定だが、双子しか分からないテレパシーのようなものを持っていたり、行動がシンクロするという現象は実際によくある話で、片方がこの世にいない場合でも、どこかで見守っている(と信じている)のは実はとても自然なことなのだ。私自身も双子の子を持つ親なので、その部分は信じていたいという思いもある。仕事でパリからロンドンへと移動する電車の中で、ルイスと密かに接触したいと思っていたモウリーンの心を見透かすかのように、見ず知らずの相手から挑発的なスマホのチャットが次々届くシーンで、物語のトーンは大きく変わっていく。日々使っているスマホのチャットが、こんなに恐ろしく感じられるとは。内なる探求から、実世界での探求、そして決別に向けて。激しくもクールで、観客自身が自分で感じ取るラストへと結実していく。
モウリーン自身も病を抱えた身で、死を意識しているからこそ、普通の人には触れられない何かに触れ、感じられない何かを感じる。殺人事件も起こるが、その印象はむしろ薄く、モウリーンのとても私的な内面を覗き見、一緒になってルイスを探した気持ちになれた。憂いのある表情で、何かをまとい続けるクリステン・スチュワートが、廃墟のような屋敷の中でも、無機質なセレブの豪邸でも静かなる存在感を放ち続ける。抑制の効いた演技に最後まで魅了された。
(江口由美)
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