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『バーニング・オーシャン』

 
       

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作品データ
原題 Deepwater Horizon
制作年・国 2016年 アメリカ 
上映時間 1時間47分
監督 ピーター・バーグ
出演 マーク・ウォールバーグ、カート・ラッセル、ジョン・マルコヴィッチ、ジーナ・ロドリゲス、ディラン・オブライエン、ケイト・ハドソン
公開日、上映劇場 2017年4月21日(金)~全国ロードショー

 

★“体感デザスター”映画の息飲む迫力

 

まるで“USJ体験”だった。大阪にUSJが出来る前、出張で訪れた米国・ロサンゼルスで時間があり、評判を集めていたユニバーサルスタジオ見学に出張仲間と訪れた。日本にはまだ出来てなかったから見るものすべてが珍しかったが、中でもビックリしたのが、最後に急激に落下する「ジュラシックパーク・ライド」と火災現場を再現した「バックドラフト」の燃え盛るセット。耳にしてはいたが、ハリウッドの底力を実感したものだ。安全性には十分配慮されていただろうが、実際に燃えるドラム缶が音たてて崩れてきたり、時おり炎があがるセットには童心にかえって驚かされたものだ。燃えるセットはホントに熱かった。


一時期、日本でもデザスター映画が大はやりした。映画担当記者時代「人間が怖いもの」=地震、雷、火事、親父の映画が人気を集めた。人類が太刀打ちできない「天変地異」を描く映画はスケール大きく、そこに人間ドラマも描き込める格好の題材でもあった。


事実『タワーリング・インフェルノ』('74年) 『大地震』('74年)は大ヒットを記録し、天変地異ではない『親父』も、フランシス・フォード・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』('72年)が大ヒットし、ニノ・ロータのテーマ曲とともにファン魅了していた。スポーツ紙流のシャレの精神だったが、残念ながら雷映画は見当たらなかった。


デザスター映画は、人類の危機に敢然と立ち向かう男がもう一方の主役。『タワーリング・インフェルノ』では、屋上に火を消し止めに行く勇敢なスティーヴ・マックィーンに感動したし、『大地震』では、多くの人々を救出する八面六臂のチャールトン・ヘストンが手に汗握らせた。パニック映画のヒーローたちの中でも、最も感動を呼ぶのは、火災現場に飛び込む消防士だ。危険を顧みず、炎の中に飛び込むのがすでに感動的だが、子どもを抱き抱えて火の中からシーンはたまらない。


bo-500-3.jpg『バーニング・オーシャン』はそんな火災映画の極めつけだ。2010年4月20日にメキシコ湾沖の石油掘削施設ディープウォーター・ホライゾンで実際に起きた原油流出事故を、事実に忠実に再現した海洋スペクタクル大作。全編にわたってひたすら燃えに燃える、圧倒的な迫力がすごい火災“体験”映画だ。


火災映画は何本か記憶に残る。最も有名なのは前述の『タワーリング・インフェルノ』だが、ほかにもジョン・ウェイン主演『ヘル・ファイター』('68年)は広大な砂漠の中の油井から発火、ウェインがウェインらしく命知らずの活躍を見せ、火災の逆気流現象を描いたカート・ラッセル主演の『バックドラフト』('91年)もかなり恐ろしかった。


bo-500-1.jpgこれらの火災映画を超えたのが最新技術を駆使した『バーニング・オーシャン』。人災でもあった史上最悪の原油流出事故の裏側を描くスペクタクルは、人類に突きつけられた歴史検証映画でもある。流出原油量490万バレル(78万キロ㍑)という地球規模の環境汚染こそが大問題だった。


126人の作業員が働くディープウォーター・ホライゾンは、船位の自動保持装置や緊急時の防御システムなど最先端テクノロジーを備えた施設。安全性は問題ないはずだった。同社の電気技師マイク・ウィリアムズ(マーク・ウォールバーグ)は愛する妻フェリシア(ケイト・ハドソン)、幼い娘としばしの別れを惜しみ、メキシコ湾の仕事場へと駆けつける。現場には上司の施設主任ジミー・バレル(カート・ラッセル)もいた。


bo-500-2.jpgだが、安全なはずの最新設備にも危険は潜む。通信機器からエアコンまで電気系統の故障が相次ぎ、修理を請け負うマイクを悩ませる。加えて管理職社員ヴィドリン(ジョン・マルコヴィッチ)が掘削作業終了前に必要なテストの担当者を独断で帰してしまっていた。安全管理を重んじるジミーは、ヴィドリンが大幅な工期の遅れを取り戻そうしていることを見抜き、厳しく問い詰めるが、彼は耳を貸さない。掘削した坑井の中で新たに行ったセメントの強度確認テストで異常値が示されたが、苦しい決断を迫られたジミーはヴィドリンの主張に反論しきれず、テストは「問題なし」となった。だが…。


どんな最新設備であろうと、管理するのは人間。ミスを犯すのも人間。だから、事故は必然的に起きてしまう。やむを得ないでは済まされないが、そこに人間の限界も見える。かくて、海底のメタンガスが猛烈な勢いでパイプに噴き上げ大量の原油が海上のドリルフロア上に漏れだし、ガスや油に引火して凄まじい大爆発を引き起こす。連鎖的な爆発と大火災はとどまるところを知らず、あたり一面火の海が広がり、史上最悪の原油流出事故は果てしなく広がっていく…。


bo-500-5.jpg“人間の業”を思い知らされるのは警告灯の点灯を確認した女性作業員アンドレア(ジーナ・ロドリゲス)が外部に救助要請しようとするものの、同僚に「勝手なことをするな」と止められたこと。物語上のことかも知れないが、こうした人間の不作為が事故を拡大する。映画では直後にガスや油がエンジン室に引火して凄まじい大爆発が発生する。


映画は普通の日常生活では見たり体験出来ないことが味わえることが魅力、と誕生以来120年もの長い間、多くのファンに愛されてきた。だが、その役割は最近は遊園地にとって変わられつつあるかも知れない。画面の大型化や音響設備の進歩で“体感型”が主流になりつつある今、原油流出事故=海洋大火災などは二度とごめん。ユニバーサルスタジオの『バックドラフト』みたいな体感型体験で十分満足していたい 。


(安永 五郎)

 公式サイト⇒ http://burningocean.jp/

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