原題 | Moonlight |
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制作年・国 | 2016年 アメリカ |
上映時間 | 1時間51分 R15+ |
監督 | 【監督・脚色】:バリー・ジェンキンス 【エグゼクティブプロデューサー】:ブラッド・ピット |
出演 | トレヴァンテ・ローズ、アッシュトン・サンダース、アレックス・ヒバート、マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス |
公開日、上映劇場 | 2017年3月31日(金)~大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、109シネマズHAT神戸、TOHOシネマズ西宮OS 他にてロードショー! |
受賞歴 | 第89回アカデミー賞(作品賞・脚色賞(バリー・ジェンキンス)・助演男優賞(マハーシャラ・アリ)) |
チェーホフの魂で語られる人生の美しい痛み。
アカデミー賞作品賞に輝いた、叙情性豊かなヒューマンドラマ。
舞台はフロリダ・マイアミの一角にあるリバティ・シティ。住人は黒人ばかりで“ドラッグ横丁”と呼ばれる通りがあり、治安は良くない。物語は、ここで育った実体験をもとにした劇作家タレル・アルバン・マクレイニーの戯曲を原案に、シングルマザーのポーラから育児放棄された少年シャロンが、ドラッグ・ディーラーのフアンと出会い、疑似親子の絆を育みながら成長していく過程を描いている。と、こんなふうに大筋を紹介すれば、社会の底辺で短く命を散らすしかない黒人の隙のない映画なのか?と偏見を持たれてしまうかもしれない。自戒の念を込めて言うなら、それは大間違い。こんな映画だったなんて、思いもしなかった!とは、試写直後に口から出た私の本音だ。けれど、想像もできない叙情的な語り口にチェーホフの魂を感じた驚きにもまして強く惹きつけられたのは、開幕と同時に目に飛び込んできた映像描写の美しさだった。
「泣きすぎて、自分が水滴になりそうだ」「海に入っちまえば、悲しくなくなるかもな」。シャロンと心触れ合わせる同級生ケヴィンとの繊細な関係にも、スタイリッシュな映像美が持ち味のウォン・カーウァイ作品の影響がうかがえる。事実、バリー・ジェンキンス監督は、カーウァイ作品を好んで観ていたそうだが、この「ムーンライト」の美しさには秘密があった。陽の光、木漏れ日、きらめく海に少年の白いシャツ、そして肌の色も、実際に撮影された映像に、カラーリストが手作業で色を足して加工している。劇中のエピソードに“月明かり(ムーンライト)を浴びた黒人の子どもは青く見える”とあり、俳優たちの肌の美しさはひと際、鮮烈だ。余談ながら、青色は、色の三原色のひとつでシアンと呼ばれ、その語源は古代ギリシア語の「暗い青」を意味する単語からきている。
主人公シャロンの人格は、“リトル”とからかわれた少年期(地元マイアミの少年アレックス・ヒバート)、多感な思春期(『ストレイト・アウタ・コンプトン』で脇役を演じたアシュトン・サンダース)、大人(テレンス・マリック監督作が待機中のトレヴァンテ・ローズ)と、3人の役者によって作り上げられているのだが、このキャスティングがまったく絶妙だった。そんなシャロンを、父性愛で見守り“自分の道は、自分で決めるんだ”と導く一方で、母親のポーラにドラッグを売るフアン。矛盾を抱えた複雑なキャラクターに扮し、アカデミー賞助演男優賞を受賞したのがマハーシャラ・アリ。さらに『007』のマネーペニー役で知られるジャマイカ系イギリス人ナオミ・ハリスは、わずか3日間の撮影スケジュールしかないなかで、南部の黒人訛りを操っての緩急ある感情表現を披露。ドラッグに溺れていく母親の悔恨を“3人1役のシャロン”の成長に合わせた熱演も、オスカー級だった。
(映画ライター:柳 博子)
公式サイト⇒ http://moonlight-movie.jp/
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