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『わたしは、ダニエル・ブレイク』

 
       

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作品データ
原題 I, DANIEL BLAKE
制作年・国 2016年 イギリス・フランス・ベルギー
上映時間 1時間40分
監督 ケン・ローチ
出演 デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・フィリップ・マキアナン、ブリアナ・シャン、ケイト・ラッター
公開日、上映劇場 2017年3月18日(土)~ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸 ほか全国ロードショー
受賞歴 第69回カンヌ国際映画祭 《コンペティション部門》 パルムドール受賞!

 

~ひとりの堅実な職人の生き様を通じて、“人間的とは何か”を問う~

 

ダニエルは、イギリスの北東部の都市で働く59歳のベテラン大工。心臓発作を起こして、医師から大工の仕事を止められる。国の支援制度を活用して、手当を受けようとするが、就労可能と評価されてしまい、求職活動せざるを得ない状況に追い込まれ、複雑な制度の中、どんどん追い込まれていく・・・。


IDB-500-2.jpgダニエルが職業安定所で出会ったのが、シングルマザーのケイティ。ロンドンから身寄りのない地方都市に引越しを余儀なくされ、働きたくても、職が見つからず、困っている姿に、思わずダニエルが手を差し伸べる。家の水道を直したり、小さな手作りの木工細工を子ども達に贈ったり、2人の子どもが少しずつダニエルになじんでいく姿に心あたたまる。


IDB-500-1.jpg手当を申請するにも、オンラインのみと冷たく言われ、これまで触ったこともないパソコンを前に、手をこまねているダニエルを見かねて丁寧に指導した女性職員は、上司から特別扱いするなと叱責される。食べ物とあたたかい住処を失いかけ、助けを求めている人に、煩雑で非効率的な手続きと官僚的な対応で、事実上援助の道を閉ざしている制度の実態が切実に描かれる。なかでも、驚いたのが、制裁措置。道に迷って、職安での面談に遅刻したケイティは、遅刻の制裁措置として、1か月間も手当の支給を止められる。職安の指示に従わない場合は、時に1年以上も支給を止められることがあるそうだ。抗議したり、拒否する自由を抑えられ、一方的に従わなければならない制度に、正義感が強く、職人肌の男ダニエルは、もの申さずにはいられなかった…。ダニエルの思い切った行動に拍手喝さいを送りたい。


IDB-500-4.jpg国の制度への怒りと同時に、映画が丁寧に描いているのは、人と人とが互いに助け合って生きていく姿だ。自分も困窮に追い込まれながらも、困っている人が目の前にいれば、手を差し伸べずにはいられなかったダニエルの姿に象徴されるように、ダニエルのアパートの隣人の若者がパソコンで代行入力してあげたり、フードバンクという民間の援助システムで、ケイティがやっと食べ物を手にすることができたり、あたたかい人間的な制度のありようについて考えずにはいられない。


IDB-500-5.jpg社会経済が不安定になり、老練した技術を持った職人でも再就職が難しく、普通にまじめに仕事に就こうとしている人がなかなか仕事に就けないのは、世界に共通する問題。これまで労働者の側に立った社会派の作品をつくりつづけてきたイギリスの巨匠ケン・ローチ監督の思いがあふれる、骨太でみごたえある作品。ユーモアにあふれ、正直で、まっすぐで、何より誇り高い人間であったダニエルの生き様を通して、人が何を大切に生きていったらいいのか、きっと胸に迫るものがあるはず。必見です。


(伊藤 久美子)

公式サイト⇒ http://danielblake.jp/

©Sixteen Tyne Limited, Why Not Produc@ons, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,
Bri@sh Broadcas@ng Corpora@on, France 2 Cinema and The Bri@sh Film Ins@tute 2016

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