原題 | 百日告別 |
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制作年・国 | 2015年 台湾 |
上映時間 | 1時間35分 |
監督 | 監督:トム・リン(林書宇/『星空』『九月に降る風』) 音楽:アコン(ソーダグリーン) |
出演 | カリーナ・ラム(林嘉欣/『カルマ』『男人四十』)、シー・チンハン(石錦航/『星空』) |
公開日、上映劇場 | 2017年4月1日(土)~シネ・ヌーヴォ、順次~元町映画館、京都みなみ会館にて公開 |
~最愛の人とすごす最後の時間~
”最後の時間”と聞くと、生前のことを思い浮かべるものだが、亡くしてからの”最後の時間”もたしかに存在する。これは大切な人を亡くした日から百日間の物語だ。
映画は事故のシーンから始まる。高速道路での大規模な事故によって多くの犠牲が出る。しかし、それは設定を示すに留まり、二つの家族の悲しみを核にスクリーンには儀式やそれにまつわる日常が淡々と映し出される。一方は、妻子を亡くした夫ユーウェイ(シー・チンハン)、もう一方は婚約者を亡くした女性シンミン(カリーナ・ラム)だ。ユーウェイを演じたシー・チンハンは台湾のミュージシャンで、トム・リン監督作品は二作目となり、気迫の演技で魅せた。
台湾の信仰は道教、仏教が一般的で七日ごとに供養をし、四十九日、百か日の法要を行うところは日本と同じだ。供養はもちろん故人を悼むためのものだが、同時に残された者が故人と別れるための心の準備をする時間でもある。受け止め方は人それぞれ、また時間の経過とともに変化していくもの。ユーウェイの悲しみは怒りという形を取り、シンミンの哀しみは湖面に降る雪のように、波立たぬままいつの間にか限界水位にまで達している。
弔いを重ねるなかで、二人はそれぞれに愛する人との別れの儀式をおこなう。シンミンは一人、新婚旅行の地を訪れ、婚約者の衣服を整理する。ユーウェイはピアノ教師だった妻の月謝を返すため、生徒たちの家を一軒一軒たずねて回る。つらいなかにも救いがあり、観ているこちら側もはりつめていた心がようやくほどけるシーンだ。とくにシンミンのシークエンスは、親日家である監督の遊び心も垣間見えて、この作品の大きなアクセントになっている。さらに、シンミンは婚約者の恩師に会い、あるものを渡される。ユーウェイは未来のなかに、シンミンは過去のなかに、希望を見出すところが対照的で、奥深い。
百か日の法要のあと、残された者の新しい旅立ちを優しく見守るように光をたたえたラストショットが胸に残る。この作品にはトム・リン監督自身の経験が投影されている。ユーウェイ、シンミンはトム・リン監督の分身なのだ。百か日は泣くのを止める日という意味があるという。続いて”生きる時間は死へ進む時間を内包する”という言葉が字幕にあらわれる。人生は、始まった瞬間から、死へ向かっていくという矛盾をはらんでいる。しかし、遠くにあっておぼろげながら近づきつつあることを自覚している場合と、突然寸断されるものとでは、大きな隔たりがあるにちがいない。最愛の人の死と、そして、残された生と、どう向き合うのかをストレートに問いながらも、根底には愛しい人への惜しみない愛情と慈しみが溢れた、美しく優しい作品。
(山口 順子)
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