原題 | The Net |
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制作年・国 | 2016年・韓国 |
上映時間 | 1時間52分 |
監督 | 製作・監督・脚本・撮影:キム・ギドク |
出演 | リュ・スンボム、イ・ウォングン、キム・ヨンミン、チェ・グィファ、ソン・ミンソク、イ・ウヌ |
公開日、上映劇場 | 2017年2月25日(土)~テアトル梅田、京都シネマ、3月11日(土)~神戸アートビレッジセンター |
~南北分断の犠牲となった一人の漁師の魂の叫びが響きわたる…~
韓国の異才、キム・ギドク監督が、朝鮮半島の南北分断をテーマに描いた社会派ドラマ。これまでと異なり、わかりやすい脚本で、直球で挑んだ物語からあぶりだされるのは、同じ民族でありながら分断され、二つの対立するシステムのために、社会の底辺の人々が犠牲になっている悲劇。
北朝鮮の寒村に住むナム・チョルは、国境近くの海で漁をして、愛する妻と小さな娘と、貧しくとも愛情あふれる暮らしを送っていた。ある朝、舟のエンジンが壊れ、国境を越え、韓国側に流されてしまう。すぐさま警察に捕らえられ、厳しい尋問を受ける。舟の故障だから、家族のもとに早く帰してほしいというチョルの悲痛なまでの懇願は聞き入れられず、警察は、スパイの容疑で、拷問にも近い、執拗な取調べをした上、韓国に亡命するよう強要し続ける。
チョルは、韓国の街の光景を何も見なければ北朝鮮にいる家族は安全だと信じて、ソウルの繁華街の真ん中に一人置きざりにされても頑なに目を閉じて抵抗したり、家族への一途な思いは決して揺るがない。チョルの思いが真摯で、愚直なまでにまっすぐなほど、さまざまな出来事が逆風となって襲いかかる。監視役の若い捜査官がチョルの気持ちを理解し、共感してくれる唯一の存在。しかし、彼の好意でさえ、意に反して、チョルを窮地に追い込んでしまう…。主人公をじわじわと絶望的な状況に追い詰めていくさまは、まさにギドク映画の真骨頂。
観ているこちらが憎しみや恐怖を覚えるほどに、過酷で容赦のない取り調べの中で、チョルが北朝鮮の特殊部隊に入隊経験があることも明らかになる。捕らえられた獣が渾身の力で、一瞬とはいえ、牙をむくようなチョルの姿に、虐げられた思いと強靭な精神力を感じずにはいられない。
果たしてチョルは北朝鮮に帰れるのか…。帰れたとしても、以前と同じように、家族と仲睦まじい生活を送れるのか…。ぬいぐるみを大切に抱いた、チョルの幼い娘が将来、幸せな人生を送ることができるかどうかは、これからの社会しだいだと、ギドク監督が問題を投げかけているようにも思えた。
「今まで網でたくさん魚をとり過ぎたようです。今度は俺が網に掛かりました」と淡々と語るチョルの言葉が胸に突き刺さる。張り裂けそうな心を抱えたまま、ドラマは収束する‥。この結末をあなたはどんなふうに受け止めるだろう。韓国の経済的繁栄の陰で、家族のために身体を売って働く女子学生が登場したり、朝鮮半島のどちらの国にも組することなく、批判的な眼差しで描こうとしたギドク監督の挑戦作をぜひスクリーンで確かめてほしい。
(伊藤 久美子)
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