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『3月のライオン』(【前編】【後編】2部作)

 
       

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作品データ
制作年・国 2017年 日本
上映時間  【前編】2時間19分 【後編】2時間20分
原作 羽海野チカ「3月のライオン」(白泉社刊・ヤングアニマル連載)
監督 大友啓史
出演 神木隆之介、有村架純、倉科カナ、染谷将太、清原果耶、佐々木蔵之介、加瀬亮、前田吟、高橋一生、岩松了、斉木しげる、中村倫也、尾上寛之、奥野瑛太、甲本雅裕、新津ちせ、板谷由夏 /伊藤英明/豊川悦司
公開日、上映劇場 【前編】 3月18日(土)~   【後編】 4月22日(土)~ 2部作連続・TOHOシネマズ系 ほか全国ロードショー!

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~吹けば飛ぶような将棋の駒……ではない!~

 

相手は飛車角、さらに金落とし(飛車と角と金なし)。それで対局し、あれよあれよという間に王将を取られてしまうほどぼくは将棋が弱い。というか、あまり考えず、「感性」だけで駒を動かすので、あっさり負けてしまうのだろう。でも全く学習(反省?)せず、また対局して大敗する。この繰り返し。だから将棋をちゃんとさす人は非常にリスペクトしてしまう。それこそプロの棋士は雲上人のような存在。本作の主人公は中学生でプロ棋士になったというのだから(羽生善治さんもそう!)、もうそれだけで異星人のように映ってしまう。


こんな将棋ど素人の、しかもベストセラーの原作コミックを読んだことがなく、NHKのアニメも観たこともない、100%「白紙状態」のぼくが、将棋をどっぷり描いた『3月のライオン』と向き合った。何でこのタイトルで将棋やねん!? とまず思った。いまだによぉわかりませんわ(笑)。前編(2時間19分)と後編(2時間20分)の2部作を通しで観て、長尺ながらも途中、飽きもせず、緊張感を保ちつつ、最後まで目が釘づけになった。正直、かなり心にビンビン響く映画だった。


3lion-500-1.jpgこれはひとえに神木隆之介扮する17歳のプロ棋士、桐山零のストイックな、それでいてめちゃめちゃ不器用な生き方に魅せられたからなのか、あるいはそんな主人公を演じた神木隆之介の演技に惹きつけられたからなのか。彼が11歳のときに映画デビューした『お父さんのバックドロップ』(2004年)で、プロレスラーの父親と距離を保つクールな息子の役がすごく印象に残っている。この子は伸びそうやと直感した。実際、その通りになった。観る者のわき腹をググッと刺してくる、そんな予知不能な演技をする俳優だ。大友啓史監督が「豪快かつ繊細な演技」を要求したそうだが、映画では零と神木隆之介が完全に一体化し、何とも強烈なキャラクターが誕生した。


「将棋しかない」。零は何度もそうつぶやいた。まだ若いんやから、恋愛とか友達とアホなことをやるとか、ライブを聴きに行くとか、繁華街をぶらつくとか、他にやることがぎょうさんあるはずなのに、極度の人見知りというか、凝り固まっているというか、この少年は将棋という狭い狭い世界に閉じこもっている。将棋でしか生きられない、将棋でしかアイデンティティを持てない、そんなギリギリの精神状態にある。だから猛烈に息苦しく思える。


9歳のときに両親と妹を交通事故で亡くしたことで天涯孤独になり、養ってもらった先が父親の友人のプロ棋士、幸田柾近(豊川悦司)の家。そこで内弟子として、対抗意識丸出しの義理の兄姉と容赦のない将棋道を競わされる。気が付けば、感情を全く表さない「将棋ロボット」になっていた。不憫に思うけれど、この境遇なら仕方がないかと妙に納得する。子役の子もなかなかしっかり演技していた!


そんな零が棋道を突き進んでいく過程で、いろんな人物とふれ合い、さまざまな確執やしがらみにもまれながら、棋界の頂点に君臨する天才棋士、宗谷冬司(加瀬亮)に一歩一歩近づこうとする。まさに1人の人間の成長譚であり、その意味では非常にわかりやすい物語なのだが、少年が出会う人物が全て魅力的で、そこにこの映画の良さがあるような気がする。もちろん俳優の演技に負うところが大。本当に適役ぞろいで、こんなにキャスティングが活きた映画は珍しい。


3lion-500-3.jpg母親が病死し、父親が女を作って失踪。そういう厳しい境遇なのに、温かい家庭を築いている川本家の3姉妹には理屈抜きに共感する。とりわけ長女あかりに扮した倉科カナの笑顔がすばらしい。健気に母親の代わりを務め、文句ひとつ言わず一家をまとめている。なんと健気な! こんな年上の美人にご馳走を振る舞われたら、思春期の男子高生ならひとたまりもなく心が奪われてしまう。ぼくならコロッケをひと口、食べた途端、将棋なんかどうでもええわいと思うかも(笑)。零はしかし、揺るがない。エラい!


3lion-500-4.jpg主人公に得も言われぬ安らぎと愛情を与えた3姉妹を「食った」のが、有村架純扮する零の義理の姉、幸田香子。香子の名は将棋の香車(槍)からつけられた。その名の通り、真っすぐにしか生きられない。強面のプロ棋士、後藤(伊藤英明)との不倫を物ともせず、ハイヒールで颯爽と街を闊歩する大人びた姿にはシビれた。有村架純はこれで一皮むけたかも。義理の弟(零)との微妙な関係と屈折した心情がドラマの隠し味として絶妙に効いていた。家族がまとまっている川本家と家族が崩壊した幸田家。この対比が零の内面に計り知れない影響を与えるところも実にスリリングで、面白い。


幼いころから零のライバルともいえる棋士に扮した染谷将太にはびっくりポン。特殊メイクとはいえ、まさかまさかの大変身に途中まで気付かなかった。見るからに繊細で、胃痛持ちであるのがひと目でわかる山形出身の棋士を誠実に演じた佐々木蔵之介、寡黙ながらも凄まじいオーラを放つ孤高の棋士になり切った加瀬亮、いかにも劇画的な役どころの伊藤英明、自分のせいで親子関係にヒビが入ったことに責任を感じる幸田役の豊川悦司……。みなドンピシャだった。


3lion-500-2.jpgおっと、忘れていた。零が通う高校の屋上で、昼休みにカップ麺ばかり食べている飄々とした担任、この先生を演じた高橋一生も零の唯一の話し相手としていい味を出していた。あのカップ麺、どこのメーカーだったのか気になって仕方がない。それにしても、黒メガネ、額を覆う黒髪、そして校舎の屋上とくれば、『桐島、部活やめるってよ』(2012年)で独特な存在感を示した神木隆之介でやっぱり決まりですな~。 


ドラマをピリッと引き締めたのが対局のシーンだった。「殺陣と同じです」と大友監督が俳優に指示したそうだが、どの場面も極度の緊迫感で空気が煮詰まっていた。駒を動かす手も全て俳優がこなしていたという。一体、何回、真剣勝負が映されたのか。かなりあったと思う。それぞれメリハリをつけて演出していたものの、対戦相手が誰だったのか思い出せない……。もう少し対局を絞ってもよかったかもしれない。密閉された空間で2人だけの激突。頭を使ったガチンコ格闘技。体は静止しているが、内面は激動している。それを映画として表現するのは本当に難しいと思う。


はて、将棋を題材にした映画は? 坂田三吉に扮した阪東妻三郎が聞くに堪えがたい大阪弁を操っていたけれど、やっぱり大阪映画の傑作やと思わしめる伊藤大輔監督の『王将』(1948年)、「賭け将棋」というややこしい世界をドラマチックにあぶり出した阪本順二監督の『王手』(1991年)……。そして松山ケンイチがあそこまで太るんかいなと驚愕させられた昨年の公開作『聖の青春』。かなりあるだろうと思っていたのに、意外や意外、あまりない。やはり対局の場面に動きがないので、絵にならないからだろうか。でも将棋人口が増えつつある現状を鑑みると、これから将棋映画を観る機会が多くなるかもしれない。


かつて村田英雄が「吹けば飛ぶような将棋の駒に~♪」と歌っていた。しかしこの映画を観る限り、将棋の駒はとてつもなく重いことがわかった。人生にグサリと楔を打ち込むほどだから重量級だ。棋士になるには、東大に行くよりはるかに難しいと聞いている。凡庸な人間の脳細胞とはまた違った回路が巡らされているのだろう。中学の時、学業はいまひとつだったのに、将棋がずば抜けて強い同級生がいた。彼の発想もかなりユニークだった。将来、「棋士になる」と豪語していたが、その後、棋界で名を見ていない。将棋の駒の重さにつぶされ、方向転換したのかな……。


ラストの結末とその後がどうにも気になる。ぼくなりの筋道……。零が宗谷にこてんぱんに敗れ、頭を丸める。日本将棋連盟から脱退して在野に下り、坂田三吉のごとくゲリラ的な棋士として奔放に棋道を歩んでいく。そこで自分の将棋を見出す。そんなベタな将棋映画をちょっぴり期待している。もちろん神木隆之介主演で~!


武部 好伸(エッセイスト)

公式サイト⇒ http://3lion-movie.com/

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会