原題 | 光陰的故事―台湾新電影 |
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制作年・国 | 2014年 台湾 |
上映時間 | 1時間49分 |
監督 | シエ・チンリン |
出演 | ホウ・シャオシェン、ツァイ・ミンリャン、ジャ・ジャンクー、アビチャッポン・ウィーラセタクン、オリヴィア・アサイヤス・ワン・ビン、黒沢清、是枝弘和、佐藤忠男、市山尚三、浅野忠信他 |
公開日、上映劇場 | 2017年1月7日(土)~第七藝術劇場、1月28日(土)~京都みなみ会館、2月4日(土)~元町映画館他全国順次公開 |
~ヌーヴェルヴァーグのように…
映画人たちが浮き彫りにする台湾ニューシネマの魅力~
一昨年の第12回大阪アジアン映画祭の特集企画<台湾:電影ルネッサンス2015>の小特集として企画された「エドワード・ヤンとその仲間たち」。そこにラインナップされたのが、原題にもある台湾ニューシネマのはじまりと称されるオムニバス映画『光陰的故事』と、エドワード・ヤンの名を世界に知らしめた『恐怖分子』、そしてその2作に触れるのはもちろんのこと、世界の映画人がその魅力やその人の映画人生に与えた影響を語るドキュメンタリー映画の本作(映画祭タイトル『光と影の物語:台湾新電影』)だった。
恥ずかしながら、私はその時に初めて『光陰的故事』と『恐怖分子』を鑑賞したのだが、懐かしさや共感だけでなく、30年も前の映画とは思えない衝撃を受け、改めて台湾ニューシネマに興味を持ったのだ。昨年はデジタルリマスター版で昨年、ホウ・シャオセンの『冬冬の夏休み』『恋恋風塵』が公開されたのも記憶に新しいが、今年は本作と同時上映で『風櫃の少年』が1月7日から公開される他、伝説の傑作と呼ばれながらもDVD化されず幻の作品となっていたエドワード・ヤンの『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』がデジタルリマスター版で劇場公開という朗報も届いている。今からでも遅くはない!『台湾新電影時代』は、台湾ニューシネマファンはもちろんのこと、台湾ニューシネマ初心者が探訪の旅に出る道しるべにもなることだろう。
本作がユニークなのは、タイ、ロッテルダム、パリ、東京、ブエノスアイレスの街を切り取るショットや、電車の往来などを見せ、ちょっとした世界旅行気分にしてくれるところだ。アジアの台湾から世界へ広がった台湾ニューシネマの影響。オリヴィエ・アサイヤス(フランス)は、「香港のジャンル映画やハリウッドとも違い、文学に着想を得、歴史的価値がある」と評すれば、黒沢清は「どうやったら最も映画的な絵に見えるのかを考えた、リアルでドラマチックな映像」と称している。もちろん絶賛ばかりではなく、時には「台湾現代史やその背景が分からないと、描かれている切実さが西洋人には伝わりにくい」と商業的にすべてがヒットには結びついていない原因を分析するコメントもあり、台湾ニューシネマを客観的に捉えようとするシエ・チンリン監督の姿勢が垣間見える。ほとんどのコメントが台湾ニューシネマとの出会いや映画づくりへの影響、映画界への影響を言及していた中、私が一番興味を持ったのは是枝弘和のインタビューだ。
インタビューの中で語ったのは自身の父のこと。ドキュメンタリー映画『湾生回家』で、台湾の日本統治時代に現地で生まれた日本人は“湾生”と呼ばれ、彼らは子どもの頃に過ごした台湾のことをずっと忘れず、懐かしく思っていることを初めて知ったが、是枝監督の父親もまさしくその湾生だったのだ。そして、楽しかった台湾時代の思い出を父親から聞かされ育ったことが、大人になってから台湾と日本の関係を考えることにつながり、ホウ・シャオセンの『童年往事 時の流れ』を観て、「自分がこんな映画を撮りたいと思える作家がみつかった」とその作風に結び付いていく。『湾生回家』の1エピソードにもなりそうな、台湾と日本の歴史を個人史から垣間見た瞬間だった。
もちろん、各映画人が影響を受けた台湾ニューシネマ作品の映像もふんだんに登場。中には日本未公開作品や、台湾ニューシネマの先駆けワン・トン作品、そして前述した『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』、『風櫃の少年』の映像も盛り込まれている。最後に、台湾ニューシネマを生み出したツァイ・ミンリャンとホウ・シャオセンが、当事者だからこその意見を語っているのも興味深い。少ない言葉の中に台湾ニューシネマの本質がずばり表現されていたのではないか。
(江口由美)