原題 | Asura: The City of Madness |
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制作年・国 | 2016年 韓国 |
上映時間 | 2時間13分 |
監督 | 【監督・脚本】:キム・ソンス(『MUSA-武士-』、『FLU 運命の36時間』) |
出演 | チョン・ウソン、ファン・ジョンミン、チュ・ジフン、クァク・ドウォン |
公開日、上映劇場 | 2017年3月4日(土)~新宿武蔵野館、T・ジョイ京都、3月18日(土)~シネマート心斎橋、元町映画館 ほか全国順次公開 |
何かを求める虚しさに疲れ果て、闇に堕ちていく刑事の苦闘。
人間が嫌いだ。この街は、人の面をつけた獣ばかり…。主人公・刑事ドギョン(チョン・ウソン)のやるせない独白で幕を開けるこの物語は、ブラジルのスラム街を彷彿とする架空の韓国・アンナム市を舞台に、生き残りを賭けた悪党たちの死闘を、滑稽なほどぶざまに描いたアクション・ノワール。重病の妻を救いたい一心から、善を装おう老獪な悪・市長ソンベ(ファン・ジョンミン)の手飼いの犬になる刑事ドギョン。真っ当な暮らしでは賄えない妻の治療費を稼ぐためなのだから、殺人の一線を越えなければ自分はソンベとは違う人間でいられる。あるいは、刑事の誇りは守れるはずだった。だが、そんな言い訳を自分に許す日々に終わりが近づく…。
選挙法違反で検挙されたソンベから、検察側の証人を始末するよう命じられたドギョンは、“棒切れ”なる麻薬常習者の男を雇って証人を排除。だが、この一件を嗅ぎ付けたドギョンの上司・班長が1枚噛ませろと割り込んでくる。悪徳刑事たちの醜い争いを嘲り笑う“棒切れ”をめぐり揉みあううちに、気がつけば班長は転落死。後輩刑事ソンモ(チュ・ジフン)が止めるのも聞かず“棒切れ”に罪をなすりつけたことから、ドギョンの運命は破滅へと疾走し始める。
ソンベの逮捕に執念を燃やす検察キム(クァク・ドウォン)に目をつけられ、内通者となるよう強要されるドギョン。「勝つ側につくだけ」の彼は、キムの本気度を試すかのように2枚舌を使い分けるが、たとえキムが本気でもいまのソンベに勝てる者はいない。なぜなら検察の上層部もまた、ソンベに抱き込まれているからだ。そんな絶対王者ソンベに切り捨てられまいと画策するドギョンはやがて、移り気な“飼い主”を出し抜こうにも勝機を逸したことを認めざる得なくなる。実の弟のように可愛がっていたソンモを、結果的にソンベの配下に引き入れてしまった自責の念は押し殺すしかない。つまるところ、どんな世界でも生き抜くしかないのだ。
ボロ雑巾のようにくたくたに疲れ切ったドギョンが怒りをたぎらせ、命知らずの不法労働者一味を追跡する姿に、誰にも奪えない刑事の矜持をみるようで、やるせなくも哀れを誘われる。葬儀場を、血で血を洗う決戦の舞台に変えたクライマックス――正義ではなく、悪でしか滅ぼせない悪がある――キム・ソンス監督(「MUSA-武士-」)のそんなアクション・センスには驚嘆するばかり。悪人だらけの闇を這いつくばり、血反吐と悪態を吐くしかできなかった負け犬ドギョンが、救えなかった妻の愛を胸に、曲がりくねった通路でソンモと正面対峙する…。壮絶を極める悪党たちの激闘は、思ってもみなかった痛切さで深く魂を揺さぶる。
人間の本質を見抜く眼力ある悪のカリスマ役で、名優ファン・ジョンミンがゾッとするほどの怪演をみせている。パンツを穿きかけて途中で手を止める(お尻も丸出し)シーンには恐怖のあまり笑ってしまうだろう。冷酷非情な検察キムの部下役チェ・マンシクは、ドギョンを拷問しながら、使い捨てにされる人間の宿命を侮蔑とも憐みともつかない表情をみせて印象を残す。虚栄のまぶしさに魅せられ、自身を見失うソンモとともに、生き地獄でのたうちまわる悪徳刑事を好演したチョン・ウソンが見ものだった。
(映画ライター:柳 博子)
公式サイト⇒ http://asura-themovie.jp
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