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『サバイバルファミリー』

 
       

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作品データ
制作年・国 2016年 日本 
上映時間 1時間57分
監督 原案・脚本・監督:矢口史靖
出演 小日向文世 深津絵里 泉澤祐希  葵わかな 菅原大吉 徳井 優 桂 雀々 森下能幸 田中要次 有福正志 左 時枝 ミッキー・カーチス 時任三郎(友情出演) 藤原紀香 大野拓朗 志尊 淳/渡辺えり 宅麻 伸(友情出演) 柄本 明/大地康雄
公開日、上映劇場 2017年2月11日(土)~全国東宝系にてロードショー

 

★“突然の危機”に家族は生き残れるか?

 

理解不能の危機が、いつどこで、誰に起きてもおかしくない時代、とんでもないことが自分の身に起こったらどうするか?  ホラーでもパニックでもなく、一時期流行したデザスター・ムービーでもない、笑いながらも「ためになる」ファミリー喜劇が出来た。


『サバイバルファミリー』はユーモラスな作品で定評ある矢口史靖監督が“未曾有の危機”に見舞われた家族のサバイバルを真剣に考察した作品。そこはさすが矢口監督、社会派転身と見えながら“矢口流”ユーモアはやっぱり健在だった。


survivalfamily-500-1.jpg平凡に都会で暮らす4人家族が、見舞われる異常事態、それは突然「電気がなくなり」すべての電気製品が使用不能で、身動きとれなくなる…そんな無茶な設定が、今は決して冗談にならない。3・11を体験した今の日本人には「いつ起きるかも知れない」非常事態に違いない。電気だけじゃない、ガスも水道もすべて、つまり、ライフラインが完全停止してしまったら…普通ではあり得ない大ピンチに“平凡家族”はどうするか?  そこが矢口監督らしい斬新な切り口だ。


東京で平穏に暮らしている鈴木家、冴えないお父さん・義之(小日向文世)、天然な母・光恵(深津絵里)に無口な息子・賢司(泉澤祐希)、スマホ命の娘・由衣(葵わかな)がある朝、目を覚ますと突然、すべての電化製品が停止していた。鈴木家だけでなく、近所どこも同じ状態。義之がようやく会社にたどり着いてもエレベーターが動かない。パソコン、スマホなど「電気を必要とする」あらゆるものが完全にストップ。義之の会社でも上司が「今日はもう帰れ!」と言うしかなかった。


survivalfamily-500-2.jpg光恵は買い物に走るが、コンビニもスーパーも食料品や水は売り切れ。街はパニック寸前。街並みやビルは平常のままだが、そこに生命ある者は見当たらない。“買い占め騒ぎ”は40年以上前のオイルショック時に経験した。一見平穏に見える街並みに人っこ一人見当たらない光景は本来SF映画のもの、50~60年代のB級ハリウッド映画ではおなじみの光景だ。


それが現実のものになったのが3・11東日本大震災、それに続く福島原発事故。直後に作られた数多くの震災ドキュメンタリーが見せた「無人の街並み」には言葉を失った。瓦礫の中に見えた「原子力が作る明るい未来」の看板は恐ろしいブラックアイロニーだった。
 



★壮快?  高速道路を自転車で東京脱出…

 

慣れない野宿に震え、水のボトルが1本2500円。買い貯めた食料が減っていく事態に鈴木家は「こんな東京にはもう住めない」と脱出を決断。一家4人、鹿児島に住む祖父(柄本明)の家に移住するべく、移動を開始する。だが、誰の考えも一緒。高速道路は車ではなく、徒歩移動の人人人で大渋滞…。高速道路を歩いて都会から脱出、なんて並みのSF映画じゃ見られない。


survivalfamily-500-3.jpg鈴木家のサバイバル脱出劇がなんともおかしい。父・義之が乾きに耐えかね川の水を飲んで下痢。トンネル前には「案内役」の老婆たちがいたが、「トンネルは一本道。要らない」と入ったら、真っ暗で引き返すはめに。無人のスーパーに入っても食料はなく、収穫はペット用の缶詰めだけ…。「大阪より西は平常通り」という噂を信じてたどり着いたものの、廃墟状態は同じでがっかり。普段はごった返す通天閣付近もまた不気味な“無人の街並み”に変わり果てていた。


西へ西へと向かう一家、須磨では魚を焼き、炊き出しもしていたが、並んでも直前で品切れ。魚は水族館の魚類だった…。背に腹は変えられないのだろうが、「水族館の魚を食べる」なんて阪神淡路大震災でもなかったことだ。


survivalfamily-500-6.jpg途中“サバイバル”家族(時任三郎、藤原紀香)と出会い、彼らから「食べられる草や虫」を教えてもらい、鈴木家も成長していく。  米屋で食料を分けてもらおうとしても「交換用品」の高級時計ロレックスや高級車マセラッテイは不要。高級品よりも1本の水の方が価値がある、そんな“逆転”世界で一家は果たして生きて行けるのか?


彼らを救ったのは岡山近辺で転がり込んだ酪農家(大地康雄)。ここで逃げた豚を捕まえる代わりに食事にありつく。豚肉のくん製や卵、野菜料理をいただき、五右衛門風呂に入ってひと心地つく。豚集めで“恩返し”を果たした一家は、酪農家を後にして、鹿児島へ向けて更なるサバイバル旅行を再開するが、川を渡ろうとした義之がカツラだけを残して水に流されてしまう…。


survivalfamily-500-5.jpg“変わり種”パニック映画ではあるが、ハラハラドキドキの連続は並みじゃない。矢口監督は「サバイバルに立ち向かうリアルさを追及するため」役者を汚す作業を念入りに行った。昨今はCG多用が常識だが、合成やCGに頼らず、高速道路を実際に自転車で走らせたかったという。「僕が作ってきた映画の中では最もシビアな状況なので、もっと痛々しい映画になる、と思ったけど、鈴木家のキャスト4人に助けられて、絶望の先に希望が見える温かい物語になりました」と矢口監督。


たった130年前の“電気のない生活”に戻るだけで命がけの旅が始まる。文明批判というほどの大上段の主張ではなくとも、アナログカメラが生き、冷蔵庫が使えない時は「くん製にする」といった工夫もある。デジタル浸けへの痛烈な皮肉、薄氷の上の現代人の日常生活の恐怖を実感出来る“未来予感”の喜劇ではないか。  


(安永 五郎)

公式サイト⇒ http://survivalfamily.jp/

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