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『ミルピエ~パリ・オペラ座に挑んだ男~』

 
       

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作品データ
原題 Releve: Histoire d'une creation 
制作年・国 2015年 フランス 
上映時間 1時間50分
監督 ティエリー・デメジエール/アルバン・トゥルレー
出演 バンジャマン・ミルピエ(『ブラック・スワン』振付)、レオノール・ボラック、ユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェ、アクセル・イーボ、バンジャマン・ペッシュ、オーレリー・デュポン 他
公開日、上映劇場 2017年1月14日(土)~シネ・リーブル梅田、1月28日(土)~シネ・リーブル神戸、近日~京都シネマ、ほか全国順次公開

 

若き“異端児”ミルピエが発掘した創作の泉と新たなる才能

 

昨年末、パリ・オペラ座バレエ団に2人のエトワールが誕生した。11月の昇級コンクール(パリ・オペラ座の階級=[カドリーユ]→[コリフェ]→[スジェ]→[プルミエ・ダンスール(女性の場合は[プルミエール・ダンスーズ])]→[エトワール])で新年からプルミエ・ダンスール昇格が決まっていたジェルマン・ルーヴェが、スジェから飛び級で最高位のエトワールに昇級したのだ。ミルピエをして「絵に描いたようなプリンス」と言わしめる存在で人気も高い。もう一人はレオノール・ボラック。2008年の入団後長らく[カドリーユ]のままだったが、ミルピエに積極的に起用され頭角を現すようになり、2014年から毎年昇級して「振付家の創作意欲をかき立てるミューズ」とまで言われるようになった。


millepied-500-5.jpg映画『ブラック・スワン』(2010年)の振付を担当し、後にナタリー・ポートマンと結婚したバンジャマン・ミルピエは、2014年10月、300年の歴史ある世界屈指のバレエ団、パリ・オペラ座の芸術監督に史上最年少で大抜擢された。だが、伝統の重圧をはねのけるように革新的“ミルピエ流”を貫いた結果、わずか1年4か月で辞任。本作は、2015年新シーズンを飾るミルピエ振付の新作「クリア・ラウド、ブライト、フォワード」の公演に向けた40日間を追った珠玉のドキュメンタリーである。階級や人種を問わず選んだ12人のダンサーたちとの創作過程には、作品に懸ける多くの才能ある人々の心情が浮かび上がってくる。目的はひとつ。時空を超え、目に見えるもの以上の感覚を生み出そうとする芸術への純粋さが、そこにはあった。


millepied-500-1.jpgミルピエが就任して先ず取り組んだのは、リハーサルスタジオを衝撃吸収材のフローリングにしたり、健康管理ユニットを創設したりとダンサーの健康第一の視点での改善。さらに、オペラ座の花形であるエトワールを起用せず下級のダンサーを活用したり、オペラ座初となる黒人ハーフダンサーを主役にしたりと、伝統無視の革新的手法は運営側やダンサーたちとの間に軋轢を生み批判もされた。だが、古いシステムを改善し若いダンサーたちの才能を開花させた功績は大きい。バレエファンならずとも、伝統あるオペラ座にミルピエがどう挑んだのか、その奮闘ぶりはサスペンスフルなヒューマンドラマのようで興味深い。


millepied-500-2.jpgミルピエの芸術監督就任は、「商船の船長が、いきなり空母を任されたようなものだ」と評されるように、少々荷が重かったのかもしれない。ミルピエの作品にはエトワールは必要なかったのだろうが、観客はエトワールを観に劇場へ足を運ぶのである。昨年8月のパリ・オペラ座『エトワール・ガラ2016』公演を観ても、技術の高さだけではないオペラ座バレエ団特有の優美な世界観は唯一無二のものだと実感した。


millepied-500-4.jpg今年3月には、ミルピエの後芸術監督に就任したオーレリー・デュポン率いるパリ・オペラ座の来日公演が予定されている。7月にはパリ・オペラ座バレエ団の舞台裏を描き出したドキュメンタリー『パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち』(原題:Backstage)も公開される。『ロパートキナ 孤高の白鳥』や『至高のエトワール~パリ・オペラ座に生きて~』のマレーネ・イヨネスコ監督の最新作である。短い間ではあったが、ミルピエがオペラ座にもたらした刺激は、創作への尽きない情熱と、伝統と進化のバランスの重要性を、改めて認識させてくれた。いつまでも別次元の優美さで人々を魅了し続けていくバレエ団であってほしい。

(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://www.transformer.co.jp/m/millepied/

(C)FALABRACKS, OPERA NATIONAL DE PARIS, UPSIDE DISTRIBUTION, BLUEMIND, 2016