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『たかが世界の終わり』

 
       

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作品データ
原題 Juste la fin du monde  
制作年・国 2016年 カナダ・フランス合作
上映時間 1時間39分
原作 ジャン=リュック・ラガルス「まさに世界の終わり」
監督 監督・脚本:グザヴィエ・ドラン
出演 ギャスパー・ウリエル、レア・セドゥ、マリオン・コティヤール、ヴァンサン・カッセル、ナタリー・バイ
公開日、上映劇場 2017年2月11日(土)~新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、109シネマズ二子玉川、立川シネマシティ、テアトル梅田、なんばパークスシネマ、京都シネマ、シネ・リーブル神戸ほか全国順次ロードショー

 

過去にこだわり、傷つけ合い、
それでもなおポツンとそこに居座っているもの。
それが愛なのか

 

家族のいざこざ問題を抱えている人がこれを観たら、途中で席を立ちたくなるかもしれない。“たかが家族、されど家族”、家族って厄介だなあと思っている私、理不尽なのに鋭い剣を突きつけられたようで、キツイ映画やなあと感じていたのだけれど、時間がたってこの映画をふり返った時、何か違う色合いのものに浸され、そして「ああ、そうなのかもしれない」と思ったのだった。題名の「たかが世界の終わり」も、かなり意味深なんだと。さすが、いま世界が注目するグザヴィエ・ドラン監督、若くして人生の辛酸をなめ尽くしたのか、それがこういう表現になったのか、と考えている。


takagasekaino-500-2.jpg作家として名前の知れたルイ(ギャスパー・ウリエル)は、自分の命が間もなく尽きることを家族に知らせなければと、12年前に飛び出した実家を訪れる。妹のシュザンヌ(レア・セドゥ)はルイが家を離れた時に幼かったので彼の記憶があまりないのだが、一生懸命のお洒落をし、母マルティーヌ(ナタリー・バイ)はルイがお気に入りだった料理を用意して待っていた。だが、成功者のルイにコンプレックスを抱き、家を出たことにいまだ腹を立てているらしい兄のアントワーヌ(ヴァンサン・カッセル)は批判的で、言葉尻をとらえようと全身武装している。その妻カトリーヌ(マリオン・コティヤール)はルイとは初対面だったが、ぎごちなくも心を通わせようとしてくれるのだが…。


takagasekaino-500--32.jpgジャン=リュック・ラガルスの戯曲を映画化したもの。言葉と言葉の応酬、場の空気を鋭角に切り刻んでゆくような会話、その間隙から立ち昇ってくる登場人物たちのそれぞれの思い。それらが大きくなったり小さくなったりの不協和音を奏で続ける。特に辛辣なアントワーヌの言葉の壁の前で、ルイが告白しようと思っていた言葉は行き場を失ってゆく。カトリーヌの「あなたはお兄さんの人生に興味など持っていないでしょ?」というような指摘も的を射ているだけに、ルイは、昔の思い出と自身の現在形の間をふらふらと漂うしかない。


takagasekaino-500-1.jpg妹、兄嫁、母、兄と、順番に一人ずつと交わす会話の、なんという断絶感!物語のラスト近く、家の中に迷い込んできた鳥、その象徴するもののことを考える。結末をどう見て、どう感じるか。冒頭に述べたように、それは時間が流れていくに従って、この映画を最初から注視してきたひとに、幾つもの問いかけをし、そして印象の色合いに変化を起こす。深くて重い、けれどもう一度、じっくりと味わってみたくなる。それがグザヴィエ・ドラン監督の魔法なのかもしれない。


(宮田 彩未)

公式サイト⇒ http://gaga.ne.jp/sekainoowari-xdolan/

© Shayne Laverdière, Sons of Manual

 

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