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『スノーデン』

 
       

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作品データ
原題 SNOWDEN
制作年・国 2016年 アメリカ・ドイツ・フランス 
上映時間 2時間15分 PG-12
原作 「Time of the Octopus」(アナトリー・クチェレナ著)、「スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実」(ルーク・ハーディング著)(日経BP社)
監督 監督:オリバー・ストーン(『プラトーン』『ワールド・トレードセンター』『ウォール・ストリート』)  脚本:キーラン・フィッツジェラルド & オリバー・ストーン
出演 ジョセフ・ゴードン=レヴィット(『(500)日のサマー』『ザ・ウォーク』)、シャイリーン・ウッドリー(『ダイバージェント』『きっと、星のせいじゃない。』)、メリッサ・レオ、ザカリー・クイント、トム・ウィルキンソン、スコット・イーストウッド、リス・エヴァンス、ニコラス・ケイジ
公開日、上映劇場 2017年1月27日(金)~TOHOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー

 

~正義か背信か、世界を敵に回す告発~

 

“世界が監視されている事実”を暴露した問題映画。何とエラい時代や! と、思っていたら、それを裏付ける衝撃ニュースも流れた。「北朝鮮の故・金正日(キム・ジョンイル)総書記が脳梗塞で倒れた時の脳内CTスキャンの画像をCIAが入手し、総書記の余命を把握していた」という。“スノーデンの暴露”は絵空事ではなかった。恐るべし、アメリカの情報収集能力!。


かつて、スパイものは正月映画では花形だった。英国MI6の「007」ジェームズ・ボンドはカッコよくて腕もたち、いつも美女に囲まれていた。だけど、「殺しのライセンス」は持っていてもあくまで虚構。やるのは人間、きわめて“アナログ”だった。ところが、007が活躍した東西冷戦時代から半世紀、時代は飛躍的に進歩、発展したと思い知らされたのが“事実の映画化”『スノーデン』だ。この数々の驚くべき事実の前に“旧人類”はなすすべもない。パソコン、スマホ、SNSの達人たちがやることはすでに常人とは別次元だ。


Snowden-500-3.jpg米国を震撼させたスノーデンの騒ぎはそれほどスケールが大きく、衝撃度もけた外れ。なにしろ、暴露した事実がデカすぎる。2013年6月、英ガーディアン紙が報じたスクープは「アメリカ政府が構築した監視プログラムにより、米CIAやNSAが膨大な情報を収集している」というもの。この報道にはアメリカはもとより、世界中が唖然とした。平和を享受している日本のオヤジはただ驚くしかなかった。なんとなあ…。


諜報機関の内部告発は“よくある話”だった。ベテランのスパイが蓄積した知識、秘密を敵対組織に買われて“移籍”する、という物語は、スパイ映画の定番でもあった。だが、スノーデンはこれまでのケースとは相当異なる。匿名でもなく、カメラの前に素顔をさらしたのは29歳の理知的なごく普通の若者エドワード・スノーデン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)。彼はNSA(米国国家安全保障局)の現役職員。将来を約束されたエリートだった。そんな若者が何故かくも重大な背信行為をしたのか?


Snowden-500-1.jpg『プラトーン』(86年)でベトナム戦争に切り込んだ巨匠オリバー・ストーン監督はその後も『JFK』(91年)、『ニクソン』(95年)、『ブッシュ』(08年)と歴代大統領を素材に“アメリカ”の闇を描いてきた。“米史上最大の内部告発”はストーン監督にとってもってこいの題材だったに違いない。


スノーデンは2004年、「9・11後」対テロ戦争に懸命な「祖国アメリカに貢献したい」と軍に志願入隊した。純粋に愛国的な若者だった。だが不幸なことに、足に大ケガをして除隊。失意に落ち込んだが、幸運にも?  CIAに採用され、持ち前のコンピュータの知識を認められる。'07年にスイス・ジュネーヴに派遣されるが、そこで彼が目にした米政府の“諜報活動の実態”にがく然とする。


Snowden-500-2.jpg政府のやってることは「対テロ諜報活動」の名のもとに、世界中のメール、チャット、SNSを監視し「膨大な情報を収集している」という恐るべき実態。スノーデン青年が「これは一体、何だ?」と素朴な疑問を抱くのは当然だった。その後、NSAの契約スタッフとして東京・横田基地、ハワイのCIA工作センターなど重要ポイントへ赴任すると「民主主義と個人の自由を揺るがす政府」への不信は募るばかりだった…。


高給と輝かしいキャリア、恋人リンゼイ(シャイリーン・ウッドリー)と築き上げた幸せな生活…スノーデンは若者なら誰もが望むものをすべて手に入れていながら、さっぱりと捨てて“命がけの告発”を行ったのだ。彼は国家の裏切り者か、それとも比類ない英雄か?  ストーン監督は重大な告発に至った事実を分析し、現代の闇を浮き彫りにしていく。


Snowden-500-5.jpgアメリカの情報収集プログラムは、テロとは無関係のインターネットや携帯電話での発言、個人の趣味嗜好にまで及んだ。こんな現実を知ったら「もはやSFではない」。これは重大な憲法違反に違いない…。合衆国憲法(修正第4条)には「国民が不合理な捜索・押収から安全を保障される権利」が明記され「これを侵してはならない」とある。  「アメリカは自由の国」であり「(合衆国憲法は)」基本的な自由の守り神。ほかでもない、米政府が自らそれに反している、と知ったスノーデンの行為は彼の「愛国心」のなせるわざだったことが分かる。


長年、アメリカ映画を見てきて、一番感じるのは、「正義感の自然な発露」という人間の行動原理だった。“勧善懲悪”というだけではない。ジョン・フォード監督の西部劇をはじめ、アメリカ映画にはおおらかな人間性が豊かにたたえられ、不正に憤っていた、と思う。ところが近年、ベトナム戦争当たりから、アメリカ映画の“金科玉条”がおかしくなってきていた。対イスラム、9・11同時多発テロ以降は“歪み”が顕著になった。スノーデン青年が暴露した「米政府の盗聴」はその証明だったに違いない。


Snowden-500-6.jpgスノーデンは、滅びてしまった感のあるアメリカ映画の主役「まっすぐな青年」なのではないか。“暴露後”の彼は「情報漏洩」のかどで米政府から追われる。捕まれば抹殺の恐れもあり、公正な裁判を受けられる保証もない。世紀の“内部告発”の代償は、影響の大きさに比例して、スノーデン青年を苦しめたのだった。


ノーベル賞の国ノルウェーでは彼に「ノーベル平和賞」をという声があり実際、何度か候補になっている。だが「受賞してもオスロには行けないだろう」と見られている。彼に救いの手を差し伸べたのは、冷戦時代の敵、ロシアだった。共産主義のソ連は崩壊したが、元の敵対国は存在感を発揮した、ということだろう。だが、ロシアでも入国は出来ず、空港までだったという。


青年スノーデンは自身のツイッターで「かつては政府のために働いていましたが、今は人々のために働いています」。この言葉に、彼の驚くべき行為の理由がこめられていると思う。


   (安永 五郎)

公式サイト⇒ http://www.snowden-movie.jp/

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