原題 | Miekkailija 英題:The Fencer |
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制作年・国 | 2015年 フィンランド・エストニア・ドイツ |
上映時間 | 1時間39分 |
監督 | クラウス・ハロ |
出演 | マルト・アヴァンディ、ウルスラ・ラタセップ、レンビット・ウルフサク(『みかんの丘』)、リーサ・コッペル、ヨーナス・コッフ |
公開日、上映劇場 | 2016年12月24日(土)~テアトル梅田、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル神戸、1月21日(土)~京都シネマ ほか全国順次公開 |
~子ども達との心のふれあいを、寡黙に、眼差しの力で伝える~
静かな映画である。それでいて、子どもたちの眼差しの力に心奪われ、内に秘めた情熱、深い愛情、何者にも屈しない闘志のようなものが呼び起こされ、深い余韻が残る。元フェンシング選手の実話を基にした映画化。
1940年8月、独立を失いソ連に併合されたエストニアは、独ソ戦によりナチスドイツに占領されるが、戦後、再びソ連スターリン体制下に置かれる。ドイツ兵として参戦した者は次々と強制連行され命を失う中、ナチスに徴兵された過去を持つエンデルも秘密警察に追われることになり、田舎の小さな町に身を隠す…。
映画は、1950年初頭、エンデルがハープサルの小さな駅に降り立ち、小学校の体育教師として雇われるところから始まる。校長に課外運動クラブ設立を命じられ、スキー用具を準備するが、軍に取り上げられてしまう。仕方なく一人、剣を取り出し振っていると、生徒のマルタが顔を出し、教えてほしいと言い、フェンシングの課外授業が始まる。大勢の子ども達を前に、子どもが苦手で寡黙なエンデルが、戸惑い模索しながらも懸命になっていく。大会に出たいという子ども達の夢をかなえるため、危険を覚悟でレニングラードへ行く決意をするが…。
剣や防具が必要で、貴族のスポーツというイメージもあるフェンシング。でも、エンデルが子ども達と、素手で、構えの姿勢で向かい合い、相手が前に出るのか後ろに下がるのか気配を察して、自分も引いたり出たりして練習する姿をみていると、相手の隙を狙うシンプルな競技としてのおもしろさが伝わってきた。
何より子ども達がいい。戦争や強制送還などで父親がいなくなり、母親は働きに出て、放っておかれた中、エンデルを父親のように慕い、フェンシングに夢中になっていく。祖父がフェンシングの選手だったヤーンと、妹弟たちの面倒をみるマルタに焦点が当てられるが、子ども達は総じて静かで、あまり騒がない。全編にわたって抑制的な演出が、逆に、子ども達の深刻で切実な状況と、希望に向けて駆け出したい思いの強さを伝え、深い感動につながる。
鉄道の駅で始まり、駅で終わる余韻がすばらしい。子ども達との心の通じ合いをもっと掘り下げてほしいとの評もあるが、あえて描き過ぎないところがこの映画の魅力だと思う。ヤーンの祖父が、何があっても負けない人間になるよう諭し、エンデルが行動で示したように、大人が子どもの成長を見守り、そっと手を差し伸べ、触れ合うさまが、その表情から、姿から、しんしんと伝わる。邦題のタイトルの意味するとおり、“剣士の心”を胸に、目標に向かって歩み続ける子ども達の底力と可能性を信じたくなる秀作。
(伊藤 久美子)
公式サイト⇒ http://kokoronikenshi.jp/
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