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『灼熱』

 
       

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作品データ
原題 原題:ZVIZDAN 英題:The High Sun 
制作年・国 2015年 クロアチア・スロベニア・セルビア 
上映時間 2時間03分
監督 監督・脚本:ダリボル・マタニッチ  撮影監督:マルコ・ブルダル
出演 ティハナ・ラゾヴィッチ、ゴーラン・マルコヴィッチ ニヴェス・イヴァンコヴィッチ、ダド・チョーシッチ
公開日、上映劇場 2016年12月17日(土)~第七藝術劇場、順次~元町映画館、京都シネマ 全国順次公開
受賞歴 第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞受賞

 

同じ俳優が演じる3つの時代の3組の恋人たち
愛は、戦争の憎しみを超越するチカラとなり得るのか?

 

8年前、クロアチア・スロベニア・ボスニア・ヘルツェゴビナの3カ国を旅したことがある。アルプス山脈の東端に位置するスロベニアやアドリア海に面したクロアチアでは、想像以上に美しい大自然や歴史的街並みを堪能したが、旧ユーゴスラビアの首都サラエボに入った途端、真新しい墓標や夥しい銃痕の建物が目に飛び込んできて、一変に観光気分が吹き飛んだことをよく覚えている。そう、これらの国々ではつい数年前まで独立を勝ち取るまで民族間で戦争をしていたのだ。


shakunetu-500-1.jpg本作は、アドリア海に面した長い海岸線が美しいクロアチアが舞台。クロアチア人の青年とセルビア人の娘との恋が、独立戦争が始まる直前の1991年、戦争が終結してから6年後の2001年、さらに10年後の平和を享受する2011年と、10年毎の3つの時代を背景に、3組の恋人たちを、同じ俳優が演じ分けている。同じ地域を舞台にしているが、物語に連続性はない。引き裂かれた愛、憎しみを超えて惹かれ合う若者、根強い偏見や社会的閉塞感の中で見出す真実の愛。人間の在るべき姿、進むべき道、正直な気持ちが辿り着く場所や、愛し合うことが生きるチカラとなることを強烈に印象付けている。


【第1章】1991年。愛し合うクロアチア人の青年イヴァンとセルビア人の娘イェレナは、村祭りのあと駆け落ちしようとしていた。ところが、イェレナの兄サーシャに大反対され強引に連れ戻される。追ってきたイヴァンは、悪しくもクロアチア人の侵入を防ごうとセルビア人によって築かれたバリケードに阻まれ……。折しも、クロアチアが独立宣言をして、少数民族だったセルビア人がユーゴ政府軍(セルビア人が主流)と共にセルビア人の村を防御しようとしていたのだ。個人の自由や尊厳を奪い、民族間で憎しみ合う熾烈な戦争が始まろうとしていた。

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【第2章】2001年。クロアチア独立戦争が終結してから6年後。隣国に避難していたセルビア人の母娘が生まれ故郷の村に帰ってくる。戦争で荒廃した我が家を建て直そうとクロアチア人の大工アンテを雇う。クロアチア人もセルビア人も戦争の傷痕を修復しようとしていたが、そう簡単には憎悪を消せるものではなかった。特に娘のナタシャは、母親が「アンテはいい青年だからもっと愛想良くしなさい」と説得するも、兄を殺されたクロアチア人へ憎悪を複雑に絡ませ頑なな態度をとっていた。そんな気持ちとは裏腹に、若いナタシャは逞しいアンテの姿を追い求めていた。消せない憎しみに苦しむ娘。戦争さえなければ普通に惹かれ合っていただろう二人の姿がせつない。

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【第3章】2011年。カーステレオから大音量で流れるロックに身をうねらせながら、ロックフェスがある海岸を目指す若者たち。その中のひとり、ルカは途中実家に立ち寄る。久しぶりの息子の帰省に驚き喜ぶ両親だが、ルカの表情は暗い。特に、母親へは冷たい。どうやらルカの恋人がセルビア人だということで、結婚を邪魔したようだ。その夜、酒に薬物にセックスと狂乱の夜を過ごしたルカだったが、多くの若者が裸で飛び込んだ海中でふと我に返る。そして、かつて愛し合ったマリアが暮らす家を目指して暗闇の中を歩き出す。ルカとの間の子供と慎ましく暮すマリアに赦しを請うルカ。

shakunetu-500-4.jpg都会の大学で学ぶルカだったが、未だ国内の経済は疲弊し将来への見通しはつかない。未だに残るセルビア人への偏見や憎しみ。重苦しい閉塞感から逃避するように刹那的な狂乱に興じても心は満たされない。本当に求めるもの、自分の居場所は…一度は引き裂かれたマリアとの愛に希望を見い出すルカの表情に、絶望の果てに虹を見付けたような喜びがこみ上げてきた。


(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://www.magichour.co.jp/syakunetsu/

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