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『幸せなひとりぼっち』

 
       

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作品データ
原題 En man som heter Ove 
制作年・国 2015年 スウェーデン 
上映時間 1時間56分
原作 フレドリック・バックマン
監督 脚本・監督:ハンネス・ホルム
出演 ロルフ・ラスゴード、バハー・パール、フィリップ・バーグ、アイダ・エングヴォル、カタリナ・ラッソン
公開日、上映劇場 2016年12月17日(土)~ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田、12月31日(土)~シネ・リーブル神戸、近日~京都シネマ、他全国順次公開

 

毒を吐きまくる不機嫌おやじなのに、
誰も彼もが好きにならずにいられない。

 

頑固おやじあるある(・・・・)の逸話が大反響を呼んで、ベストセラーとなったフレドリック・バックマンの原作同様、映画も世界各国で好意的に迎えられた。人気の理由はなんといってもオーヴェのキャラクターに尽きます。スウェーデンの名優ロルフ・ラスゴードが、悲哀の底に愛と絶望をにじませ“憎さ余って愛おしさ100倍”の主人公を大熱演。見せ場こそ少ないものの、追い払おうとしたのにちゃっかり居座る野良猫との絡みにも注目です。

 
siawasenahitori-500-1.jpgドラマは、半年前に最愛の妻ソーニャを亡くした独居老人オーヴェが、自らの規範に照らし共同住宅地内の秩序を管理する現在を軸に、その過去をひもといていきます。物事には、人間が生きていくには秩序が保たれているべきだと厳しい監視の目を光らせるオーヴェの信念は決してブレることがありませんから、長いものに巻かれがちな私は畏敬の念すら抱いてしまうほど(半分、本気)でした。たとえば、2つで70クローナの花束を半分だけ買うのだから値段は「35クローナ」じゃないか!とゴネて店員をうんざりさせる。客観的にみてもほぼモンスターおやじのそしりは免れないのだけれど、その屁理屈一理あるなとうなづけたりしません?

 
騒々しさを嫌い、不条理を憎悪。食事は家でとるもの(外食は無駄使い)だし、男たるもの自転車はもとより車の修理くらいできて当たり前。言うまでもなく、工具一式やハシゴ、ホース等DIYグッズは常備品。亡き父の影響もあり、スウェーデンの国産車サーブを偏愛(車種をめぐり親友と絶縁するほど!)。外国車に乗る人間は信用に足りず、とりわけ役所の人間を敵視する。これが映画の主人公オーヴェという男のざっくりプロフィール。なかなかの偏屈ぶりで、周囲からは変人扱いされている“逸材”なのですが…。

 
siawasenahitori-500-3.jpgソーニャの墓に日参し、日々のあれこれとともに、彼女への思いを語るオーヴェは、勤続43年の仕事を突然クビになり、負うべき責任は何一つなくなった。思い残すことなく自殺を決行しようと冷蔵庫を整理し、身だしなみを整える。死んだあと、他人に余計な手間をかけまいと考える几帳面さが切なくもあり、おかしくもあり。ところが、ロープに首をかけたその時、隣人一家が騒々しく引っ越してきた。こうしてイラン人妊婦パルヴァネとの交流が始まる。妻に会いたい一心の、オーヴェの意志に反して。

 
オーヴェの深い喪失感を知るがゆえに見守るしかできないでいた住民たちとは違い、新参者パルヴァネはなにかと“お隣さん”のオーヴェを頼りにする。その都度、ぶつくさ文句をを垂れるオーヴェに負けじと“ああ言えば、こう言う”パルヴァネは、幼い2人の娘のお守りをさせたり、自動車の運転を教えてほしいなどと無茶ぶり。次第にオーヴェの計画を狂わせる存在になっていく。線路に飛び込もうとしていたのに、誤って転倒(先を越された!)した男性を(誰も助けようとしないので)たまりかねて救出。信頼できる愛車サーブでの排ガス自殺に挑むも失敗。ならいっそ猟銃で…と物置を物色して見つけたのは、彼がその腕に抱くことのなかったわが子のために、手作りした揺りかごだった。

 
siawasenahitori-500-2.jpg暴言吐きまくりの自殺志願者オーヴェ。いわく、運命とは人間の愚行の積み重ねというが、彼の人生訓においては「隣人」に左右されることしばしば。パルヴァネ一家しかり、生家の延焼しかり…。彼が幼い頃に死んだ母の写真を、愛おしそうに触れる無口な父の姿から「人生にはどう生きていくか、決める瞬間がある」ことを学び、優しく聡明なソーニャからは、唯一無二の愛という贈りものを得て人生の素晴らしさを知った。そして、たとえ愛する人がいなくなった世界にも、生きる意味があるのだと教えてくれたパルヴァネ。悲喜こもごもに彩られた人生の忘れがたい美しさと痛みに、思いがこみあげる。オーヴェという男、どうやっても嫌いになんてなれない。


(映画ライター:柳 博子)

公式サイト⇒ http://hitori-movie.com/

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