原題 | 原題:Il racconto dei racconti 英題:Tale of Tales |
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制作年・国 | 2015年 イタリア・フランス合作 |
上映時間 | 2時間13分 (PG12) |
原作 | ジャンバディスタ・バジーレ(「ペンタメローネ[五日物語]」上下巻 筑摩書房) |
監督 | 監督・脚本:マッテオ・ガローネ(『ゴモラ』『リアリティー』) 共同脚本:エドゥアルド・アルビナティ、ウーゴ・キーティ、マッシモ・ガウディオン 撮影:ピーター・サシツキー |
出演 | サルマ・ハエック(『フリーダ』)、ヴァンサン・カッセル(『クリムゾン・リバー』『美女と野獣』)、トビー・ジョーンズ(『奇蹟がくれた数式』)、ジョン・C・ライリー(『おとなのけんか』)、ステイシー・マーティン(姉・『ニンフォマニアック』)、シャーリー・ヘンダーソン(妹)、ベベ・ケイヴ(王女)、クリスチャン・リース、ジョナ・リース |
公開日、上映劇場 | 2016年11 月25 日(金)~ TOHOシネマズ 六本木、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ 二条、TOHOシネマズ 西宮OS ほか全国ロードショー |
現代に甦る大人のための耽美的童話。
“女の幸せ”を求めた女たちのブラックファンタジー
犠牲を払ってでも子宝を願う王妃、王の寵愛を得ようと必死で若返ろうとする老婆、理想の結婚を夢見る王女に訪れたサバイバル。17世紀のイタリアはナポリ王国で書かれた説話集「ペンタメローナ(五日物語)」51話の内の3話をベースにした物語である。 (14世紀の「デカメロン(十日物語)」に習って1日10話を5日で語られ、それを統合する1話をプラスして51話となる。)3つの王国の3人の女たちの物語を交互に絡ませながら魅了する世界は、『ゴモラ』('08)で観客の心を掴んだマッテオ・ガローネ監督の重厚な映像美の賜物。ルネッサンス後期の豪華な衣装や調度類にあふれた世界や、魔法使いも登場し、さらには観光地としてあまり知られていないイタリア各地のお城や景勝地がロケ地となっている。絵画のような色彩にワクワクしたり、ゾクゾクするような奇異な生き物が登場したりと、空前絶後のビジュアルで観る者を圧倒する。さあ、大人のための耽美な世界を覗いてみましょう。
【ロングトレリス王国の不妊の王妃】
不妊に悩む王妃(サルマ・ハエック)は、魔法使いに教えられた通り海の怪獣の心臓を王(ジョン・C・ライリー)の命と引き換えに得て、処女の下女に調理させて食したその夜の内に男の子を出産する。心優しき王が王妃のために白い怪獣と闘い命を落としても意に介せず、ひたすら我が子に執着する。ところが、生娘だった下女も同夜男の子を出産し、16年後成長した王子エリアスと下女の子ジョナ(クリスチャン・リースとジョナ・リース)は白い双子のように仲良く育つ。特別な絆で結ばれていた二人を疎ましく思った女王はジョナの抹殺を企むが、女王の凶行はもろ刃の剣となって自身に降りかかる。
因果応報というか、王の勇敢な行動は、新しい命が生まれる時の犠牲となって消えゆき、女王となった王妃の独占欲は凶行を生み、彼女自身に代価が求められる。我が子を望むあまり、犠牲をいとわぬ女の執着がもたらした悲劇。
(ロケ地:シチリアのドンナフガータ城とアルカンタラ渓谷)
【ハイヒルズ王国の夢見る王女】
父王(トビー・ジョーンズ)が目の中に入れても痛くないほど可愛がって育てた王女ヴァイオレット(ベベ・ケイヴ)は、美しく成長しお年頃を迎えていた。丘の上にそびえる要塞のようなお城で育った王女は外の世界に憧れ、理想の結婚相手を夢見ていた。ところが、たまたま身に着いたノミを可愛がるようになった王は、王女よりノミの世話に執着する。生肉を与えて内緒で飼っていたノミが巨大化し、ある夜死んでしまう。嘆き悲しむ王は、余興として巨大な皮を見せて「ノミの皮」と言い当てた男に王女を嫁がせようとする。大勢の男達がチャレンジするが、誰も分からない。そこへ巨漢の恐ろしい風貌の鬼がやって来て、その鋭い嗅覚でもって見事言い当ててしまう。王女は無理やり遠い山奥の断崖絶壁にある鬼の巣へと連れていかれる。あれほど可憐で光輝いていた王女は、絶望の日々の中やつれ果てていくが、ついに脱走の機会が訪れる……。
嫌がる王女を「この数奇な運命は神のご意志かも――真の強さを得て幸せになれる!」と説得した父王。そもそも王の気まぐれで王女に降りかった悲劇だったが、惨憺たる鬼とのサバイバルの果てに掴んだものこそ、ヴァイオレットを真から輝かせることになる。幸せは与えられるのを待つのではなく、自らの力で掴み獲るものなのだ!
(ロケ地:世界遺産のブッリャ州のデルモンテ城、トスカーナのソヴァーナの洞窟)
【ストロングクリフ王国の老婆】
淫慾にふける王(ヴァンサン・カッセル)は、国中の美女をはべらせても飽き足らず、ある日耳にした美しい歌声の女に執着する。「王の威力でもって落とせぬ女などいない」と思っていた王は、思わぬ抵抗に遭う。実は、美しい声の持ち主は染物をしている年老いた姉妹の妹の方だった。王の誘いを拒み続けるが、欲深い姉のドーラが「暗闇」を条件に王の寝所に行くことを約束する。体中のたるんだシワを熱い糊でくっ付けては必死で若作りし、灯が消された城の最上階へ――翌朝、王の一夜の喜びは絶叫へと変わる。恐怖と怒りにおののく王は、ドーラを崖下の森へ投げ捨てるよう命じる。ところがドーラは奇跡的に助かった上、通り掛かった魔法使いに若返りの魔法まで掛けてもらう。絶世の美女として蘇えったドーラ(ステイシー・マーティン)。それをまたしても王が見初めて、なんと妃に迎えてしまう。妹のインマ(シャーリー・ヘンダーソン)は、訳がわからないまま婚礼の宴に招かれて、王妃が姉のドーラだと知るや、その若返りの秘密を聞き出そうと執拗に王妃に付きまとう。そして、憐れ、妹のインマは…。
王の寵愛を受けようと現実を偽って招いた報いが恐ろしいことになった悲劇。いつの時代でも、若さと美貌を永遠に保ちたいと願うのは男女問わず常なること。在りのままを受け入れて寛容に生きることも「心の美」に繋がるというもの。最後に、真の勇者の前では魔法が効かなくなっていく辺りはブラックだわ~。
(ロケ地:アブルッツォ州のロッカスカレーニャ城、サッセートの森)
カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを2度も受賞したイタリアの鬼才マッテオ・ガローネが綴る古典絵画のような映像美は、大人のためのブラックファンタジーとして、得も知れぬ記憶となって心に刻み込まれる。こんな映画、滅多にお目にかかれない代物である。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://itsuka-monogatari.jp
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