原題 | 原題:돌연변이“突然変異” |
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制作年・国 | 2015年 韓国 |
上映時間 | 1時間32分 |
監督 | 製作:イ・チャンドン 監督・脚本:クォン・オグァン |
出演 | イ・グァンス、イ・チョニ、パク・ボヨン、キム・ヒウォン、チャン・グァン |
公開日、上映劇場 | 2016年12月17日(土)~シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート心斎橋、シネ・リーブル梅田、T・ジョイ京都、1月1日(日)~元町映画館 ほか全国順次公開 |
“羊男”ならぬ“魚男”に、この競争社会は泳ぎ切れるのか。
韓国でもハルキニストが多いからか、実在の被りものミュージシャンを映画化した「FRANK-フランク-」やマンウィズに触発されてかはわからないが、本作で長編デビューを果たした俊英監督クォン・オグァンが生み出したメタファーとしての主人公は、可愛い系のネコでも癒し系のクマでも超人でもなく“魚男”なんである。都市伝説か、はたまた実在するのか。世界各地で目撃情報があり、ウルトラマンオーブにも登場した上半身が魚化したキャラクター設定だが、いかんせん“魚”からイメージできるものが、ぬめぬめてらてらといった擬態語と、陸に上がった魚の“死んだ目”だけというお粗末さ。あ。さかなクンも…。は、さておき。「魚のような死んだ目」なる慣用句と出会って以来(いつのことか?)、魚は死んだ目なんだー。死んだ目と目を合わせたくないなー。などと、魚屋の店先でこわいなとつぶやいてしまうこともしばしば…って、そろそろ、“魚”話を終えて本題に入らなきゃ。
主人公パク・グ(特殊メイクで初主演のイ・グァンス)は、真面目で内気なフリーター青年だった。高額報酬につられて新薬治療の治験者となったが、不運にも副作用によって肉体が魚化してしまう。この衝撃的な事件はマスコミの格好の餌食となり(小さな魚が大きな魚に食われるってことで、魚だけど弱肉強食。またの名を食物連鎖)、SNSの拡散も手伝って、若者の就職難や便乗商法とリンクしたり思いがけない“ブーム”を巻き起こす。渦中の魚男くんの心情を置いてけぼりにして。で。そんな魚男くんのために、人権派弁護士(キム・ヒウォン)が立ち上がる。愛情表現が苦手な昔気質の父(「トガニ 幼き瞳の告発」のチャン・グァン)も、世間を味方に付けた訴訟に負けるはずがないと信じていた…。
世間の狂騒ムードから身を遠ざける魚男に、恋人ジン(「過速スキャンダル」のパク・ボヨン)は、1回寝ただけの関係だと冷ややかな態度。しかも、製薬会社に彼を売り飛ばしたうえに、SNSでネタをまき散らすという強かさ。けどそんな尻軽悪女ちゃんは、天涯孤独で踏みつけにされても這い上がってみせるという気概の持ち主だったりする。そう、魚男の物語は、世間の荒波でもがき生き抜くために必死な現代人の姿を描きつつも、人間の醜さ、愚かさを切り身(!)にしてどーんと舟盛りにしたような映画なのだ。その舟を“韓国社会の今”だと安穏とかまえてはいられない現実に、日本も直面しているのだが。
そしてもう1人の主要人物に、魚男と出会い運命を変える青年サンウォン(「犬どろぼう完全計画」のイ・チョニ)がいる。ジャーナリスト志望だが、地方出身でコネのないパンピーというハンデを負うサンウォンは、たまたまスト中で人手不足とはいえTV局に仮採用。魚男の極秘取材に成功すれば、正社員にしてやるからと。彼もまた餌に釣られた一匹の魚だった…。だが、やがて自身が魚男になっていたかもしれないという現実を思い知ることになる。
首つり自殺に失敗したパク・グ(悲しいかな、魚化した彼には首がない…)と、バスルームで互いの境遇や夢を語り合ったサンウォンが、自分の海へと泳ぎだす決意をにじませたその目は、確かに生きている魚のそれだった。
(映画ライター:柳 博子)
公式サイト⇒ http://fishman-movie.jp/
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