原題 | FREEHELD |
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制作年・国 | 2015年 アメリカ |
上映時間 | 1時間43分 |
監督 | ピーター・ソレット |
出演 | ジュリアン・ムーア、エレン・ペイジ、マイケル・シャノン、スティーヴ・カレル他 |
公開日、上映劇場 | 2016年11月26日(土)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹他全国ロードショー |
~求めたのは平等な権利。愛する人を守る尊い闘い~
社会の寛容さが失われ、マイノリティに対する偏見、排除が増していく傾向が世界的に高まる今、ぜひ観てほしい愛と勇気の話がある。
同性のパートナーに死後自分の遺族年金を残すため、平等の権利を求めて分厚い法の壁に立ち向かったカップル、ローレルとステイシーを描く短編ドキュメンタリー『FREEHELD』。2008年のアカデミー賞最優秀短編ドキュメンタリー賞を獲得した同作をベースに、自らもプロデューサーに名を連ねたエレン・ペイジ、『アリスのままで』の熱演も記憶に新しいジュリアン・ムーア主演で長編映画化。二人の愛を細やかに描きながら、死を目前にし、限られた時間の中で、世界を変える闘いに命がけで挑む主人公の生き様を克明に焼き付ける。
舞台は、アメリカ・ニュージャージ州。ジュリアン・ムーアが演じるのは男社会の警察組織の中、目覚ましい活躍を見せていた女性警察官、ローレルだ。そんな地元での信頼も厚いキャリアウーマンが恋をしたのは、クラブで出会った自動車整備士のステイシーという若い女性。エレン・ペイジ演じるステイシーとローレルの出会いと一緒に住むようになるまでの流れはとても自然で瑞々しい。ただ、職場で同性愛者であることがバレるのを恐れ、同僚のデーン(マイケル・シャノン)にも打ち明けられない様は、社会の偏見、昇進への決定的ダメージを恐れて自分らしく生きられないLGBT(性的少数者)の苦悩をリアルに映し出す。
ドメスティック・パートナーシップ法が法制化され、二人で登録しに行き、新居も購入。ようやくデーンにも同性愛者であることを告げ、つつましくとも幸せな新生活が軌道に乗ってきたときに、ローレルに非情な運命が訪れる。末期の肺がん宣告だ。普通なら命を終えるその時まで、病魔と闘い続ける話となっていくのだろうが、闘うのは病魔とだけではなかった。この物語の真髄はここから。愛する人に遺すもののために、平等な権利を求めて闘うのだ。
最初は自分を信じて打ち明けてもらえなかったことにわだかまりを持っていたデーンも、ローレルだけでなくステイシーを支える存在となり、ゲイの活動家がデモ隊を携えて応援に来るなど、社会にも影響を与えていく様は、不平等に負けない市民運動のうねりを感じずにはいられない。LGBTに対する法の壁は簡単に取り払われるものではないが、諦めなかったのは、そこに深い愛があったから。そして、ローレルが常に持ち続けた正義感が、普通ならベッドから動くことができない体を、委員会のスピーチに向かわせたのだろう。
LGBTを描く作品は最近増えているが、ただの出会いと別れを描くラブストーリーではなく、彼女たちが現実問題としてどんな不平等に直面し、権利を脅かされているのか。平等な権利を求めて自ら声を上げ、社会に問題提起する力を見事に映し出し、そこに心動かされた。勇気ある闘いを愛情深く演じたジュリアン・ムーアとエレン・ペイジが、エンディングクレジットに写真で登場した生前のローレルとステイシーにピタリと重なったのは言うまでもない。
(江口由美)
公式サイト⇒http://handsoflove.jp/
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