原題 | REMEMBER |
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制作年・国 | 2015年 カナダ、ドイツ |
上映時間 | 1時間35分 |
監督 | 監督:アトム・エゴヤン 脚本:ベンジャミン・オーガスト |
出演 | クリストファー・プラマー、ブルーノ・ガンツ、ユルゲン・プロホノフ、ハインツ・リーフェン、ヘンリー・ツェニー、ディーン・ノリス、マーティン・ランドー |
公開日、上映劇場 | 2016年10月28日(金)~TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ(なんば、二条、西宮OS)、シネ・リーブル神戸 他全国ロードショー |
認知症気味のおじいさんだからってナメちゃいけない。
おぼつかない記憶と体がもたらす予想外の緊迫感と、驚愕の結末に震撼!
最近高齢者を主人公にした作品が多い。大概、人生の終末をどう迎えるかという“エンディング・ストーリー”系が多いが、本作は違う。ヨボヨボの体に記憶が途切れ気味の90歳のおじいさんが、なんと70年前の恨みを晴らそうとする、アクション・スター顔負けの上質のリベンジ・ムービーなのだ。しかも、主演は87歳のクリストファー・プラマー(『人生はビギナーズ』(‘10)で最高齢の82歳でアカデミー賞助演男優賞受賞)、助演には88歳のマーティン・ランドーやドイツの名優で75歳のブルーノ・ガンツ(『ヒトラー最期の12日間』(‘04))とユルゲン・プロホノフ(『U・ボート』(‘81))ら大ベテランが勢揃い。70年前の復讐という年月の重みと、戦争がもたらす悲劇をひしひしと感じさせる異色のサスペンス・ドラマである。
高齢者ケアハウスで暮らす90歳のゼヴは、妻が死んだことすら認知できず、目覚める度に亡き妻の名を呼んでは不安にかられていた。妻の葬儀の日に、同施設で暮らすマックスから一通の手紙を渡される。そこには、70年前アウシュヴィッツ強制収容所で、ゼヴとマックスの大切な家族を殺したナチ戦犯が「ルディ・コランダー」と名前を変えて生き延びているという内容が記されていた。同名の容疑者は4人。体が不自由なマックスは司令塔となり、ゼヴの“復讐の旅”を完全サポートする。だが、ゼヴは目覚める度に“ここはどこ?私は誰?”状態になり、その都度手紙を読んでは自分の腕に刻まれた収容者番号を見て、自分の為すべきことを確認しなければならなかった。
一人ひとり容疑者を訪ねては、名前と年齢とアウシュヴィッツ収容所で働いていたかどうか確認していく。相手にとっても触れられたくない過去。目指す仇かどうか相手と対峙するシーンや、警察に保護され連れ戻されるのではとか、おぼつかない記憶と体で不安にかられながら旅を続けるゼヴの姿に、ハラハラドキドキの連続。さらに、ゼヴはピアノが得意だったのか、自然と指が動き、奏でる曲はワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』の一節。そこに重大な秘密が隠されているなんて、最後の最後まで知る由もない。
第二次世界大戦中、各地に存在した強制収容所で殺戮に関わったナチ戦犯の中には、戦後ニュルンベルク裁判を免れて海外へ逃亡した者も多いと言われる。現在でも、イスラエルの情報機関モサドやサイモン・ヴィーゼンタール・センターではナチ戦犯容疑者の捜索が続行されている。今年6月にも94歳のアウシュヴィッツ強制収容所の元看守に有罪判決が下された。年々高齢化する容疑者たち。決して絵空事ではない、負の歴史を曖昧にしない徹底した決着の付け方を、静謐なタッチでサスペンスを際立たせる名手、アトム・エゴヤン監督の演出が冴える逸品。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://remember.asmik-ace.co.jp/
©2014, Remember Productions Inc.