制作年・国 | 2016年 日本 |
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上映時間 | 1時間54分 |
原作 | 樋口卓治「ボクの妻と結婚してください。」(講談社文庫刊) |
監督 | 三宅喜重 |
出演 | 織田裕二 吉田羊 原田泰造 高島礼子 |
公開日、上映劇場 | 2016年11月5日(土)~全国東宝系にてロードショー |
~青島刑事・織田裕二の仰天“愛妻物語”~
ラブコメみたいなタイトルだが、今の時代、誰に起きても不思議はない、自分が「こんな事態になったら」と考え「かくありたい」とも思う(か?)夫婦愛の物語。かつて青島刑事役の『踊る大捜査線』で日本一の興行成績を記録した人気男・織田裕二が家族愛の極致を演じて見せる。織田も「ようやく自分のやるべき作品と役柄に出会うことが出来た」と語る出会いの一編。「事件は会議室で起こってるんじゃない」と叫んで現場の共感をつかんだ男の“最後の思いも”くたびれた世代の熱い共感を呼びそうだ。
テレビ業界で働く敏腕放送作家・三村修治(織田)は斬新な切り口のバラエティー番組で旋風を巻き起こしてきた。タフでないと務まらない仕事。そんな彼がすい臓がんで「余命6か月」の宣告を受ける。我が家には愛妻・彩子(吉田羊)と小学生の息子・陽一郎。何不自由なく仕事に打ち込んできた彼には「そんなバカな」「何で俺が」というのが本音だろう。そこには「俺が病気になる訳ない」という不遜な自信もあったはずだ。
3人に一人、最近では2人に一人ががんになる時代、がんは難病ではあっても、珍しい病ではなくなった。どんなに充実した仕事をしていても図らずもハマってしまう罠だろうか。だから、病とどう戦うかという“難病もの”ではなく「病その後」を見据えた映画になるのも時の流れかもしれない。
夫・修治は幸せに暮らす妻・彩子の「その後」を考え“再婚相手”を探し始める。「ホンマかいな」「そこまでするか」というのが正直なところだが、修治は元仕事仲間で現・結婚相談所社長・知多かおり(高島礼子)の協力を得て“妻に最高の結婚相手”を探す作業に着手する。ウソじゃなかった。現夫が妻の“婚活”に励むのだから、ただの“夫婦愛”ものを超えている。
テレビ業界に限らず、仕事が多忙な“世の亭主連中”は、家庭と子供は妻に任せっきり。家庭内は平穏、安泰で当たり前。重大関心事は自分の健康状態というのが“平均的亭主像”ではないか。朝晩2回は「愛している」と口に出して言わなければ“離婚訴訟”に発展する(と言われる)アメリカなどと違って、日本には「妻に感謝する」風習、文化、社会風土は希薄。実際は「かかあ天下」や「妻に頭が上がらない」落語みたいな亭主もいるだろうが、基本的に「妻への気持ちは表に出さない」のが“武士の国”日本の風潮だろう。
より正直な日本映画では新藤兼人監督のデビュー作『愛妻物語』('51年)のような「妻への思い」を真正面に出した作品もある。『愛妻物語』は新藤監督の自伝的要素が強い作品。若い脚本家(宇野重吉)が厳しい監督から何度も書き直しを命じられ、生活苦にあえぎながら新妻(乙羽信子)の内職に支えられて陽の目を見るが、妻は過労がたたって胸の病に倒れる、という苦闘物語。
もう一本、名高い“愛妻映画”は木下恵介脚本、富本壮吉監督の『妻の日の愛のかたみに』('65年)。こちらは見合いで結婚した若い教師(若尾文子)が教壇で倒れ、関節リウマチの難病と診断される。夫(船越英二)は実家や周囲から強く離婚を勧められるが、断固として応じず妻に寄り添い続ける…。
夫婦に限らず、二人の間で愛情がクローズアップされるのは、病という巨大な壁ゆえ。二人の強い思いや家庭環境、お金では解決出来ない難問と戦うため、二人の愛情は極限まで純化される。「テレビの現場」に生きる三村が“自分の死後”に妻の幸せを一途に求める姿と破天荒な構想は、もはや彼得意のバラエティーではなく、ファンタジーにまで昇華している。
修治は「彩子が自分に愛想をつかすように」売れっ子アイドルと密会現場を写真誌に撮らせ、意を決して彩子に「離婚してくれ」と要求する。「納得いかない」彩子は修治を問いつめ事の真相を聞き出す…。彩子が激怒したのは当然だろう。「一緒に病と戦いたい」思いを伝えるが、修治の“切なる願い”を聞き入れて“3人で”お見合いの席に着く。友人が選んだ男・正蔵(原田泰造)は当初「冗談じゃない」と激怒するが、修二の真剣そのものの懇願に折れるのだった…。
テレビのトレンディ・ドラマやさっそうとした刑事役でアピールしてきた織田が“余命6か月”の男を力演。今作では愛する妻子を幸せにする不退転の戦いに挑む。それは、自らの“命の期限”とのスリリングな一騎討ちでもあった。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://bokutsuma-movie.com/
(C)2016映画「ボクの妻と結婚してください。」製作委員会