原題 | Mandariinid |
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制作年・国 | 2013年 エストニア・ジョージア合作 |
上映時間 | 1時間27分 |
監督 | 監督・脚本:ザザ・ウルシャゼ |
出演 | レムビット・ウルフサク、エルモ・ニュガネン、ミヘイル・メスヒ、ギオルギ・ナカシゼ、ライヴォ・トラス |
公開日、上映劇場 | 2016年10月8日(土)~テアトル梅田、順次~京都シネマ、元町映画館、ほか全国順次公開 |
~戦い合う前に、同じ人間であること~
1992年に起こったコーカサス南部のジョージア(グルジア)とその西部のアブハジアとの紛争を舞台に、戦争の不条理さと愚かさを、シンプルなストーリーで、人間味豊かに描いた傑作。
みかんの名産地であるアブハジアで、エストニア人は集落をつくって暮らしていたが、紛争の勃発により、大半が故郷に帰国した。収穫期を迎えたみかん畑に残っていたのは、老人イヴォとマルガスだけ。映画は、イヴォが、電動鋸で木を削り、みかんを入れる木箱をつくるシーンから始まる。厳しい表情が職人肌を感じさせる。
紛争が激しくなる中、近くで撃ち合いがあり、二人は、重傷を負った、アブハジアを支援するチェチェン兵のアハメドと、ジョージア兵の若者ニカとを助け、家に運ぶ。互いに銃を向け合った敵同士が、一つ屋根の下で、過ごすことになる。
アハメドは、隣室のニカを「殺してやる」とベッドに横たわりながら大声で騒ぐ。けがをして、体が不自由ながらも、敵意をむき出しにして、なじりあう二人を、イヴォは、わしの家で殺しは許さないと叱責する。どこの兵であろうと、人間なら、傷ついた者をいたわり、けがを手当てして助けるのは当たり前だと諭すイヴォ。危険を承知で、命を救い、かくまってくれたイヴォ達の並々ならぬ覚悟と思いを知るうちに、二人の兵士の憎しみは薄れ、同じ食卓に座り、食事を共にするようになる…。アハメドが家族を養うために傭兵となったこともわかってくる。夜、野外で焚き火を囲んで食事している4人の間に、国の隔たりも、民族の隔たりもない。人間同士のいたわりと楽しい会話があるだけ…。
しかし、運命は残酷だ。ロシア兵がイヴォの家を訪れ、応対に出たアハメドを敵兵と疑い銃を向けた時、ニカがとった行動は…?最後、イヴォが見送りで交わす会話がいい。みかんのなる丘で、イヴォとともに、深く青い海を見つめ、いつまでも余韻に浸る…。
どの国にも通じる、普遍的な話。戦争の中でも、決して人間性を失わない、毅然とした生き方をイヴォが見せてくれ、圧倒された。イヴォの寡黙さと頑固さの奥に秘めた、戦争への怒りが心につきささる…。殺意をぶつけ合っていた二人の兵士がしだいに変わり、見せてくれた人間味と笑顔が忘れられない。
(伊藤 久美子)