原題 | Se Dio vuole |
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制作年・国 | 2015年 イタリア |
上映時間 | 1時間28分 |
監督 | 脚本・監督:エドアルド・ファルコーネ 共同脚本:マルコ・マルターニ |
出演 | マルコ・ジャリーニ、アレッサンドロ・ガスマン、ラウラ・モランテ、エンリコ・オティケル、イラリア・スパダ、エドアルド・ペーシェ |
公開日、上映劇場 | 2016年10月1日(土)~テアトル梅田、MOVIX京都、神戸国際松竹 ほか全国順次公開 |
目に見えるものしか信じられない傲慢エリート医師を癒した奇跡の出会い
今年はイタリアンコメディーの快進撃が続いている。男性優位のイタリア社会を皮肉るように女性建築士の奮闘ぶりを描いた傑作コメディ『これが私の人生設計』は、恋や家族や仕事とままならぬ人生を痛快な笑いで吹き飛ばしてくれた。本作は、「手術が成功するのはすべて自分が優秀だから」という傲慢なエリート外科医と、服役中に信仰に目覚めたカリスマ神父という対照的な二人がもたらす奇跡を、軽快なタッチで感動へと導いてくれるヒューマンドラマ。
今日も難しい手術を成功させて人々から感謝されるトンマーゾ(マリコ・ジャリーニ)は、病院のスタッフにも家族にも威圧的で自己チュウぶりを発揮していた。そんな傲慢な夫に愛想を尽かした妻のカルラ(ラウラ・モランテ)は、荷物まとめて家出!? ならぬ家庭内別居へと。頼りない男と結婚してしまった娘は論外で、期待の息子・アンドレア(エンリコ・オティケル)は医者の道に進むどころか神父になると言い出す始末。家族バラバラ、自分の思うようにならずイライラがつのるトンマーゾだった。
毎夜男友だちと出掛ける息子を心配したトンマーゾは、娘婿のバイクで後を付けると、そこには若者に熱狂的に迎えられた神父・ピエトロ(アレッサンドロ・ガスマン)がいた。そのカリスマ神父こそ息子の将来を邪魔する元凶!とばかりに、ピエトロ神父の化けの皮を剥ごうと躍起になる。「失業中の哀れな自分を救ってほしい」と嘘をついて神父に近付き、さらには探偵まで雇って神父の過去を調べさせる。
トンマーゾは身分を偽って神父に近付いたが、神父が彼の疑問や悩みに真剣に応えたり、過酷な家庭環境を是正しようと家庭訪問をしたり…と言っても偽りの身の上なので、偽りの悪妻や体の不自由な家族をでっちあげることに…。神父の親身な対応や、服役中に信仰に目覚めた話など、その人間性に次第に惹かれていく。ところが、……。
何の憂いもなくエリート街道まっしぐらのトンマーゾだったが、いつの間にか妻を始め周囲の人々の心は離れてしまっていたのだ。最後の衝撃的できごとには意表を突かれたが、損得抜きに何かのために尽力するトンマーゾの充足した表情こそ、本作の結末を暗示しているようだ。人智の及ばぬ万物の摂理を体感したとき、誰しも神秘の力の前では謙虚な気持ちになる。そこから人間は信仰というものを生み出したのかもしれない。
47歳にして初監督作となったエドアルド・ファルコーネ監督は、それまで脚本家として活躍し、コメディ研究家でもある。昨年の《東京国際映画祭》で来日した際には、「ただのドタバタ劇ではなく軽すぎないコメディを目指した」と解説し、さらに「あまり語られない信仰と精神性をテーマにしたかった。観客には楽しい時間を過ごしながら、生きる勇気を持ってもらいたい」と語り、見事〈観客賞〉を受賞した。現代人が抱える不安を癒してくれる、そんな寛容さをもった作品。
(河田 真喜子)
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