制作年・国 | 2016年 日本 |
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上映時間 | 1時間59分 |
監督 | タナダユキ(『ふがいない僕は空を見た』『ロマンス』) |
出演 | 上野樹里、リリー・フランキー、藤竜也、長谷川朝晴、安藤聖、渡辺えり |
公開日、上映劇場 | 2016年10月8日(土)~梅田ブルク7、TOHOシネマズなんば、T・ジョイ京都、シネ・リーブル神戸 ほか全国ロードショー! |
小さな段ボール箱いっぱいの愛から始まる、
新しい家族のかたち。
イチゴパフェを食べながら、父親を一時的に預かってくれという所帯持ちの兄(長谷川朝晴)。どうやってもムリだと一歩も譲らない妹の彩(上野樹里)。それだけで、兄妹のお父さん(藤竜也)がかなり面倒くさい存在だと想像できる。けど、そんな話をイチゴパフェを食べながら、、、なのがおかしい。この冒頭に、シリアスなテーマを軽妙な語り口で描く映画のトーンは明らかだ。深刻にならずに笑っていられる。で、じわじわと沁みだしてくる老親問題とか、34歳の主人公の将来とか悩ましい現実を頭の隅っこで意識させられる。
再就職できず、アルバイトで生計を立てている彩は、まるでうだつが上がらないちょっと「何者?」風のバツイチ54歳、伊藤さん(リリー・フランキー)と思いがけず同棲。まったりと心地よい日々を過ごしていた。そこに、彩のお父さんが転がり込んできた。
小学校教師だったお父さんは、74歳。ウスターソースを「ウースター」と呼んだり、なかなかの偏屈者。そんな招かれざる客のお父さんを、伊藤さんが面白がってるふうなのでなおさら彩には癪にさわるのだが、すったもんだの共同生活で知らなかったお父さんの姿を目の当たりにする。一番近くにいたのに、いつの間にか他人のようによそよそしい間柄に。そんな距離感を作った娘を、自立したつもりでいさせてくれるのも親の愛だろう。
ならば、面倒くさい父を案じてはいても、自分の人生で手一杯の現実を抱え込んでるという言い訳にかまけて、目の前に差し迫った状況を気づかないふりの兄妹が、あんな居丈高な父がボケるはずがないと思い込もうとするのも、子どもなりの愛なのだ。面と向かえば煩わしいからと言っても、居なくなっては欲しくない…。家族愛の、大いなる矛盾に悶々とする彩だったが、肌身離さず持っていたあの秘密の箱の中身を知って、いよいよ現実を直視することに。
お父さんは、他人の伊藤さんと話すときには娘という代名詞では呼ばず、彩と名前で呼ぶ。「彩は自分の娘だ」という父親の自負心を意識させ、伊藤さんをけん制しようとしているのだろうけれど、この父なりの娘への愛は残念なことに、なかなか本人には伝わらない。
飄々として捉えどころがなく、まるで孤独を愛する旅人スナフキンのような伊藤さん。彩たち家族のもどかしい思いを気遣って、なんとはなしに助言(しかも的確!)をする伊藤さんの優しさは非凡だ。たぶん彩は、お父さんと違うタイプの男性に惹かれたと思っているだろうが、あながちそうとは言い切れないあたり、家族の結びつきの不思議を思わずにはいられない。
(映画ライター:柳 博子)
公式サイト⇒ http://father-mrito-movie.com
(C)中澤日菜子・講談社/2016映画「お父さんと伊藤さん」製作委員会