映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『レッドタートル ある島の物語』

 
       

redtuetle-550.jpg

       
作品データ
原題 La tortue rouge
制作年・国 2016年 日本・フランス・ベルギー 
上映時間 1時間21分
監督 原案・脚本・監督:マイケル・デュドク・ドュ・ヴィット  脚本:パスカル・フェラン  アーティスティック・プロデューサー:高畑 勲  音楽:ローラン・ペレズ・デル・マール  製作:スタジオジブリ/ワイルドバンチ  プロデューサー:鈴木敏夫/ヴァンサン・マラヴァル
公開日、上映劇場 2016年9月17日(土)~全国東宝系にてロードショー

 

雄大な海に浮かぶ孤島の神秘。セリフなしに、
人生の真実を叙情豊かに描いたアニメーション。

 

幼い娘を残し、父は小舟で旅立った。帰り来ぬ父を待ちつづけ、成長していく娘…。わずか8分間のうちに、1人の女性の人生を描いた「岸辺のふたり」で、米国アカデミー賞短編アニメーション映画賞を始め、世界各国で多数を受賞したオランダ出身のマイケル・デゥドク・ドゥ・ヴィット監督。短編の名手と名高いマイケル監督が、満を持して放った初長編作「レッドタートル ある島の物語」は、スタジオジブリが海外と共同製作した第一回作品で、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門特別賞を受賞。マイケル監督の作家性に深い共感を覚える高畑勲監督が、シナリオと絵コンテ作りにも携わった。


redturtle-500-3.jpg荒れ狂う海に、ひとり放り出された男。必死に生き抜こうとする彼は、奇跡的にある島に流れ着く。だが、そこは無人島。誰の助けも得られず、飢えをしのぎ孤独に耐える日々。やがて、男は島からの脱出を試みる。木を集めて筏を作り、追い風に乗って海へと漕ぎ出す。ところが、筏はいくらも進まぬうちに壊れてしまう。何度作り直しても、筏は粉々になってしまう。そこに赤い亀を見つけた彼は、孤独といや増す絶望から赤い亀に怒りをぶつける…。こうして、甲羅の中に眠る赤い髪の女と出会う。


redturtle-500-1.jpg全編セリフがない。ないために、映像と音楽に意識を集中させる。それだけで十分に、物語を読み取らせる技巧の持ち主であるマイケル監督は、観る者の想像力を掻き立て、言葉では伝えきれない思いがあるのだと、改めて気づかせる。この主人公は、母なる海から生まれたのかもしれない。この世界に生まれる奇跡の命を与えられた者が、どんなふうに生きて愛するのか。あるいは、いま人生の荒波のなかでもがき苦しむ者に、諦めず絶望しないよう道を示そうとしているのかもしれない。


redturtle-500-2.jpg凪いだ海。自由に大空を舞う鳥たちの鳴き声。雨に満たされた大地に芽生える木々、果実。時に圧倒的な力をふるう自然のうちに、人間の営みがある。生きることを、心の深いところにまで沁み渡らせる見事な一編。


(映画ライター:柳 博子)

公式サイト⇒ http://red-turtle.jp/

カテゴリ

月別 アーカイブ