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『何者』

 
       

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作品データ
制作年・国 2016年 日本
上映時間 1時間38分
原作 朝井リョウ『何者』新潮文庫刊
監督 三浦大輔
出演 佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生、山田孝之他
公開日、上映劇場 2016年10月15日(土)~全国東宝系ロードショー
 

~就活観察エンタメが問いかける「自分とは」~

 
「1分間で自分を表現してください」
就職活動(以降就活)の面接で何度も問われるこの質問に対し、学生たちがスラスラと答えていくのは、ある種異様な光景だ。面接に行きつくまでのエントリーシートの書き方ひとつをとっても、入念な戦略を練って書くことが当たり前。今の就活は本当に大変!とゆるい就活しかしていないバブル世代の私は思うのだが、大変なのはそれだけではない。SNSを使って企業人たちに就活のための自己アピールを展開することもできるのだ。裏を返せば、友人のアピール度合や就活状況を知ろうと思えば知ることができる訳で、ただでさえナーバスな時期に他人のことが目に入っては、心穏やかなはずがない。
 
 
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現代の就活事情を通して、社会人一歩手前の学生たちのリアルな姿を描いた朝井リョウの直木賞受賞作『何者』を、演劇ユニット「ポツドール」主催、『愛の渦』の三浦大輔監督が映画化。演劇サークルの中心人物だった冷静分析系男子、拓人(佐藤健)、同居人でバンドボーカルの天真爛漫系男子、光太郎(菅田将暉)、拓人が片思いする地道素直系女子、瑞月(有村架純)、瑞月の留学友達で意識高い系女子、理香(二階堂ふみ)、理香の同棲相手の空想クリエイター系男子、隆良(岡田将生)の5名が繰り広げる就活模様は、人生の岐路に立つ彼らそれぞれの本音が次第につまびらかになるスリルに満ちている。
 
 
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舞台劇さながらのシチュエーションとして緊迫感のあるやりとりに惹きつけられるのが、拓人の上の部屋に偶然住んでいた理香の部屋。就活に必須のプリンターがあることから「就活対策本部」となり、折に触れて5人で集まることになったこの部屋でのやり取りは、「ああそうなんだ」という一言の裏に、何を考えているのだろうと詮索したくなる余韻が残る。自身の課外活動のキャリアを強調するばかりの理香や、就活をバカにしながらも突然私服で就活を始めていた隆良は、確かに「それでは落ちるわ」と思わせる。一方、当初の夢を曲げてでも母を養うために働く強い意志を持った瑞月や、ある事情から出版社を志ざした光太郎は内定を勝ち取る。内定がもらえないことを含めて本音を明かさず、常にスマホでTwitterをチェックしている拓人は今どき青年の代表格なのかもしれない。後半思わぬ形で彼の本音が露呈する時、内定をもらえない理由が自ずと見えてくるのだ。
 
 
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演劇サークルのサワ先輩(山田孝之)だけは、自ら立ち上げた劇団で毎月公演を行っている同期だったギンジをライバル視し、周りにも冷静な目線を向ける拓人に対し、「もっと想像力があると思ったのにな」と示唆深い言葉をかける。他人の分析ばかりで、肝心の自分が分析できていない。自分の心の声に正直に向き合えていない。それは、いい大人になっても自分から逃げ、SNSで目にした他人の失敗や自慢に辛辣な言葉を投げかける不特定多数の人たちに向けての言葉にも聞こえる。
 
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三浦大輔監督らしい演劇的演出や、役者たちの行間のある演技を堪能しながら、短縮された言葉が飛び交うSNSに埋もれそうな今とうまく折り合いをつけ、自分らしく生きる術に思いを巡らせた。そして、一生かかって私たちは「何者」かになるのだろう。就活はほんの入り口、先は長いと、これから就活に突入する娘世代に、お節介ながらエールを送りたい。
(江口由美)
 
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公式サイト⇒ http://nanimono-movie.com/
(C) 2016映画「何者」製作委員会 (C) 2012 朝井リョウ/新潮社

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