原題 | Tudo Que Aprendemos Juntos |
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制作年・国 | 2015年 ブラジル |
上映時間 | 1時間43分 |
監督 | セルジオ・マシャード |
出演 | ラザロ・ハーモス、カイケ・ジェズース、サンドラ・コルベローニ他 |
公開日、上映劇場 | 2016年8月13日(土)~ヒューマントラストシネマ有楽町、20日(土)~テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、27日(土)~京都シネマ他全国順次公開 |
~音楽を通じて生きる希望を獲得する、スラム街少年少女と先生の葛藤~
リオデジャネイロオリンピック開催で、私たちは図らずしもブラジルの現実を目にすることが増えた。熱戦の裏側では、反対運動が繰り広げられ、銃撃事件など日常茶飯事だという。一方で選手と観客の垣根を取り払うような演出の開会式や現場スタッフの臨機応変な対応ぶりなど、いい意味で日本では実現しないであろう「ブラジルらしさ」を感じさせるエピソードも聞こえてくる。そんなブラジルの現実をもっとよく知り、かつ音楽の持つ力に心震える作品が届いた。
本作の舞台は、ブラジルで最大のファヴェーラ(スラム)。その地で誕生した子どもたちによる交響楽団の実話を基に、ファヴェーラで生きる子どもたちと彼らに音楽という“武器”を与え、導いていく先生の姿を描いている。度々映し出されるファヴェーラの遠景は、クラッシックとどうも親和性がない。しかも、生徒たちが練習するのは学校の屋上だ。ギコギコと調子外れの「きらきら星」を演奏する彼らの前に現れたのはサンパウロ交響楽団のオーディションに落ち、失意の中指導を引き受けたバイオリン奏者、ラエルチ(ラザロ・ハーモス)。音楽をする以前に態度面で問題続出の生徒たちを前に、「まるで動物園だな」と口にする。だが、ギャングたちの脅しを自身のバイオリン演奏で切り抜ける新しい先生に、暴力より強い音楽の力を見た生徒たちは、少しずつ変わっていく。
ファヴェーラの子どもたちを取り巻く環境は厳しい。ギャングたちの手下として働かされたり、カード偽造のような違法行為に手を染める生徒もいるが、彼らが音楽に触れたことにより、「もっと音楽をしたい」という欲求、しいては人生への希望を抱くようになる。その希望は、自らが招いた困難や友人の死により打ち砕かれそうになるが、それでもくじけず最後コンサートにのることができたのは、先生や一緒に音楽をやってきた交響楽団の仲間たちがいるからだろう。一人で奏でるのも音楽だが、皆でハーモニーを奏でるのも音楽。優雅なホールで最高級の音色を響かせる交響楽団もあれば、ファヴェーラの中の野外ステージで、鈴なりの観客を前に若々しい音色を奏でる初々しい交響楽団もある。政府への抗議デモすら市民の怒りの音楽のように聞こえるファヴェーラ。そこで奏でられるクラッシックと、サッカーを観戦するかのように意気揚々とその様子を見つめる群衆を見て、改めて音楽は演者と観客の双方があってこそ、より大きなハーモニーを生み出すことを実感する。団員の生徒たちだけではなく、地域にも力を与える希望のアンサンブルに耳を傾けてほしい。
(江口由美)
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