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『エル・クラン』

 
       

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作品データ
原題 El Clan 
制作年・国 2015年 アルゼンチン 
上映時間 1時間50分
監督 パブロ・トラペロ
出演 ギレルモ・フランセーヤ、ピーター・ランサーニ、リリー・ポポヴィッチ、ガストン・コッチャラーレ、ジセル・モッタ、フランコ・マシニ、アントニア・ベンゴエチェア、ステファニア・コエッセル他 
公開日、上映劇場 2016年9月17日(土)~新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA、10月1日(土)~シネ・リーブル梅田、T・ジョイ京都、10月22日(土)~シネ・リーブル神戸、他全国順次公開

 

~アルゼンチンを騒がせたこのファミリー・ビジネスに唖然!~

 

世の中では時々とんでもない事件が起きる。ニュース報道などでは伝えられることと公にできないことがあるから、報道された上っ面だけを見て「へええ!」と、他人は驚くのみだが、当事者しか知らない内部事情というものがある。それだけでなく、当事者ですら後から振り返って「なんであんなことをしたのか?」と首をひねる場合がある。探っても探っても、真実や動機が、暗闇の中から出てこないというケースもあるのではないか。この映画は、アルゼンチンで起きた実際の事件をもとに描かれているが、その衝撃性とともに、「なぜ?」という疑問に終始つきまとわれた。


elclan-500-4.jpgこの映画の背景として、軍が強権をふるった独裁政治から民主化が徐々に進んでいった1980年代アルゼンチンの社会状況がある。裕福でご近所からも一目置かれるプッチオ家は、当主のアルキメデス(ギレルモ・フランセーヤ)のほか、妻と息子3人、娘2人の7人家族。何不自由なく幸せに暮らしていたとさ、と思いきや、1982年のマルビーナス戦争(フォークランド紛争)の敗戦により、軍政下で情報管理官として活躍していたアルキメデスは失職、それが驚愕のファミリー・ビジネスの契機となる。そのファミリー・ビジネスとは何か?家族に不自由を与えないための収入を得たいと願うアルキメデスが主導した、のけぞるほどに残虐なものだった。


elclan-500-3.jpg地元のラグビーチームで花形選手として脚光を浴びている長男のアレハンドロ(ピーター・ランサーニ)が主に父親の手伝いをするのだが、彼の真の葛藤は最後の最後まで伏せられる。彼は、その悪行の間、ラグビーの試合に出場したり、自身が経営するサーフショップをオープンさせたり、恋人と愛を語らったり、青春を謳歌するような日常の日々を過ごすのだ。アルキメデスの妻エピファニア(リリー・ポポヴィッチ)は、何を思っていたのか、見て見ぬふり。海外に脱出していた次男もアルキメデスに呼び戻され、再び悪行に精を出す…全く、彼らの感覚は尋常ではない次元に行ってしまっている。


elclan-500-1.jpgアルゼンチン映画では、とんでもない逆ギレ小話を綴ったオムニバス作品『人生スイッチ』というのがあった。あっちは笑いを狙ったフィクションで単純に大笑いできたが、こっちは実話であり、描かれているものの背後をうろうろする暗い影が気になってしようがない。それでいてブラックな笑いのネタも少々添えられ、エンディングで語られる“彼らのその後”もまた本編以上の衝撃で観る者を襲う。スペインの監督ペドロ・アルモドバルが『人生スイッチ』と同様にプロデューサーとして名を連ねていて、やはりラテン系の好みは太陽の強烈な明るさだけでなく、その裏にひそむ影の暗さを含んだものなのかなあと妙に一人で納得してしまった。


(宮田 彩未)

公式サイト⇒ http://el-clan.jp/

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