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『オーバー・フェンス』

 
       

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作品データ
制作年・国 2016年 日本 
上映時間 1時間52分
原作 佐藤泰志『オーバー・フェンス』(小学館「黄金の服」所収)
監督 山下敦弘
出演 オダギリジョー、蒼井優、松田翔太、北村有起哉、満島真之介、松澤匠、鈴木常吉、優香他
公開日、上映劇場 2016年9月17日(土)~テアトル新宿、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、京都シネマ他全国ロードショー
 

~失うもののない男女が不器用に愛を求める、

函館三部作最終章~

 
『オーバー・フェンス』というタイトルを象徴するかのように、自由に空を飛ぶ鳥たちの姿が映し出される。ヒロインも、飛び方を知らない鳥がそれでも空を憧れるかのように、腕を上下に動かしながら鳥の鳴きまねやダンスをしてみせる。函館の地で翼をもがれた鳥のように、失うものすらない男女が出会い、惹かれ合う物語。そこに至るまでの葛藤も含めて、どこか飄々とした山下敦弘監督ならではのリズムが、登場人物の過酷な現状を優しく包む。
 
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妻子と別れ、仕事も辞めて故郷函館に戻り、今は一人暮らしで職業訓練所に通う白岩(オダギリジョー)。訓練所では、一緒にキャバクラを経営しようと話を持ちかける代島(松田翔太)をはじめ、年齢もそれまでのキャリアも様々な男たちが人生をやり直すべく学んでいる。親戚や訓練所の仲間と適度な距離を保ちながら、きままに、そして孤独を感じながら生きている白岩の前に、ある日路上で鳥の求愛のポーズをとる女が現れる。後日、代島に誘われて入ったキャバクラで再会したその女は、聡(蒼井優)という名のホステスだった。代島と聡の仲を疑いながらも、聡が会いたがっていると言われた白岩は、彼女がアルバイトをしている遊園地に向かうが……。
 
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一見穏やかそうに見える白岩が、夜、一人でいつもの缶ビールとコンビニ弁当を食べる姿を、キャメラは背中から静かに映し出す。人に言えぬ孤独が、その背中から伝わってくる。そんな白岩と、常識からはみ出すパワーと、一度会ったら忘れられない存在感を持つ聡が出会い、二人の心の距離が近づく中で起きる化学反応は、本作の大きな見せ場だ。夜の遊園地のシーンは、空から羽が降り注ぎファンタジーのような幸福感を与えてくれる。一方、聡の部屋で二人きりになるシーンは、生々しく感情が爆発し、二人の過去が露わになる。愛ゆえに起こる感情の両極をオダギリジョーと蒼井優が説得力のある演技で魅せる。
 
 
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日中の訓練所風景やその仲間たちの日常描写は、おっさんたちの群像劇のよう。訓練所の部活動(ソフトボール部)風景や、仲間で元ヤクザの男の自宅訪問時に起きる爆笑エピソードなど、山下節全開で登場人物やその家族の思いを細やかに描き、物語が立体的に立ち上がってくる。ずっと会っていなかった元妻・洋子(優香)と白岩の再会シーンも、優香の清々しい表情が離婚後の時の流れを感じさせ、白岩にとっても大きな転換点となる。
 
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本作は、熊切和嘉監督の『海炭市叙景』、呉美保監督の『そこのみにて光輝く』に続く佐藤泰志原作函館三部作の最終章にあたる。いずれも大阪芸大出身の監督による連作というのも面白い試みだが、撮影監督は三作とも同じく大阪芸大出身の近藤龍人で、まさに近藤三部作でもある。閉塞感やままならない人生を痛切に感じる前二作と比べて、『オーバー・フェンス』が温かさや清々しさを感じられるのは、近藤龍人のカメラワークによるところも大きいだろう。降り注ぐ日差しの中、映し出されるのは坂のある街並み。白岩を演じるオダギリジョーが何度となく登り坂を自転車で駆け抜ける。函館の日常や、そこに生きる人を切り取り、外れ者のブルースのように不器用な愛を重ねた二人のラストは、青春映画さながらの爽快感に満ちていた。
(江口由美)
 
公式サイト⇒http://overfence-movie.jp/
(C) 2016「オーバー・フェンス」製作委員会