制作年・国 | 2016年 日本 |
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上映時間 | 2時間6分 |
原作 | 河原和音『青空エール』講談社「Be-Love」連載 |
監督 | 三木孝浩 |
出演 | 土屋太鳳、竹内涼真、葉山奨之、堀井新太、小島藤子、松井愛莉、平佑菜、山田裕貴、志田未来、上野樹里 |
公開日、上映劇場 | 2016年8月20日(土)~TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、OSシネマズミント神戸、TOHOシネマズ二条ほか全国ロードショー |
~励ますことで自分も強くなれる。純度100%の青春映画~
高校球児にとって甲子園が聖地であることは、日本人ならほぼ誰もが知っている。一方、吹奏楽部にとっての聖地が普門館だったことは、あまり知られていないだろう(現在は名古屋国際会議場)。高校野球同様、全国大会に出場する名門校は、日々厳しい練習に明け暮れ、高校から初心者で吹奏楽部に入部する部員がとても肩身が狭いことは容易に想像できる。というのも、私の3人の子どもは中学校から全員吹奏楽部に入り、県大会出場権を得る金賞を目指して、地区大会前は一日中練習に明け暮れていたから。結局彼らは在学中に一度も金賞を取ることができず、悔し涙を随分見てきた。一方、街のお祭りや定期演奏会では、劇中でも演奏される人気フュージョンバンドT-SQUAREの名曲を吹奏楽バージョンにアレンジした「宝島」など、ポップスからジャズまで楽しそうに演奏する彼らの音楽をたっぷり堪能させてもらった。
『俺物語!!』の原作者でもある河原和音の人気コミックを青春映画の第一人者、三木孝浩監督が映画化した本作は、野球と吹奏楽の名門校が舞台だ。高校から初心者で吹奏楽部に入部したヒロイン、つばさがクラブに恋に奮闘し、成長する姿が、彼女が奏でるトランペットの音色から伝わってくる。大事な人を応援し、演奏するクラブの仲間の気持ちを一つにする『青空エール』。一生懸命、誰かに思いを伝えることは青春の特権のように見えて、実は幾つになっても大事なことなのだと気づかされる。
肝心なときは、いつもうつむいて言いたいことが言えなくなってしまう、つばさ(土屋太鳳)は、幼い時テレビで見た高校野球を応援する吹奏楽部に憧れ、入部を決意する。同じクラスの大介(竹内涼真)は、野球部に入り甲子園に連れていくとつばさに約束し、つばさは大介に恋心を抱いていくが、金賞常連校の吹奏楽部では1年ながらコンクール出場メンバーの水島(葉山奨之)から取り組みの甘さを指摘されてしまう。大介も3年の先輩、航太(山田裕貴)を甲子園に連れていくことができず……。
1年生の時に、クラブ活動で起こった数々の失敗も、うまく進まない恋も、全てはそれぞれが目指す場所に行くための必要な通過点。自分に自信が持てず悩むヒロインつばさが、周りを巻き込みながらみせる成長を、土屋太鳳が見事に体現している。3年生になったときのつばさの精神的、そして演奏面の成長ぶりは目を見張るものがある。そんなつばさを支える吹奏楽部の顧問を演じるのは、『のだめカンタービレ』や『スウィングガールズ』で人気を博した上野樹里。吹奏楽人気の火をつけた作品で部員や演奏者として大活躍した上野が、一見クールだが、生徒の気持ちを汲んで熱心に指導をする顧問として大人の演技を披露しているのも感慨深い。益々、学校ものの音楽映画に欠かせない存在になった気がする。本作ではクラブの伝統を繋ぐ、とても重要な役割も果たしている。エンドロールで流れる”吹奏楽部あるある”写真での表情にも注目してほしい。
そして、この物語がこれだけ爽やかさを放っているのは、つばさを甲子園に連れていきたい一心で、目標達成するまでは恋もお預けとストイックな姿勢を貫く一方、笑顔が本当に素敵な大介演じる竹内涼真の存在感が大きい。高校球児らしい清々しさが全身から滲み出ていた。応援席から届けられるエールと、グラウンドの球児たちが一つになったとき、夢は現実になる。白馬の王子さまならぬ、怪我を克服し、真っ黒に日焼けした大介が最後に放つ言葉は、まさに直球ど真ん中。小細工なしの王道をいく青春映画にふさわしかった。
(江口由美)
(C) 2016 映画「青空エール」製作委員会 (C) 河原和音/集英社