原題 | SING STREET |
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制作年・国 | 2015年 アイルランド=イギリス=アメリカ |
上映時間 | 1時間46分 |
監督 | ジョン・カーニー |
出演 | フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、ルーシー・ボーイントン、ジャック・レイナー、エイダン・ギレン他 |
公開日、上映劇場 | 2016年7月9日(土)~ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、MOVIX京都他全国順次公開 |
~80年代に青春を過ごした全ての人におくる“彼女とバンドに捧げた日々”~
「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、見た?」が挨拶代わりの85年。イカした女の子をくどきたい一心でバンドを結成する男心は、どうやら世界共通だったらしい。アイルランド・ダブリンを舞台にした音楽映画の名作『ONCE ダブリンの街角で』のジョン・カーニー監督が、自伝的要素をたっぷり滲ませ、当時の音楽やファッションを見事に再現した青春音楽映画を撮りあげた。デュラン・デュラン、A-ha、ザ・クラッシュ、ホール&オーツと日本でも大人気だったUKロックシーンの音楽が次々に登場。80年代に青春を過ごした人なら、心も身体も歓ぶはずだ。冴えない日常から抜け出し、彼女に振り向いてもらうため歌い続けた少年たちの日々は、誰もの心の中にある青春の扉をそっと開いてくれるだろう。
85年ダブリン。不況のため父親が失職し、荒れた公立校に転校したコナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)は、学校でのいじめや両親の離婚問題で八方ふさがり。唯一の気晴らしは、引きこもりのロック好きな兄とブリティッシュミュージックのビデオを見ることだった。ある日、学校帰りにイカした年上ラフィナ(ルーシー・ボーイントン)を見かけたコナーは、なんとか話しかけようと「僕のバンドのPVに出ない?」と口走ってしまう。突然のバンド宣言を実行に移すべく、なんとかメンバーを集め、曲作りやPV撮影の段取りを進めていくのだったが…。
単なる青春キラキラ物語ではないのは、コナーの家庭事情が詳細に描かれていることからも分かる。夫婦喧嘩が絶えない両親への怒りを歌にしてストレス発散していたコナーに舞い降りてきた初恋。バンドを結成し、曲を作るだけでも大変なのに、スマホもデジタルカメラもない時代にPVを撮影するなんて、映画撮影並みの大変さだ。もちろんイカしたバンドはルックスが大事とばかりに、コナーたちが模倣するのは当時カリスマ的人気を誇ったカルチャークラブのボーイ・ジョージのようなイカついスーツと濃いメイク。ラフィナもシーナ・イーストン風のファッション&メイクで、“お手本はUKロック”をそのまま実践している彼らに共感度大。コナーたちのバンド、シング・ストリートのオリジナル楽曲も、懐かしい電子音やリズムを散りばめ、身体が動き出すようなポップな感覚がいっぱいだ。
コナーの夢はラフィナと海を越えてイギリスへ行き、バンドで成功を収めること。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』風プロムパーティーシーンでは、ラフィナも参加して場内が踊りで満ち溢れる空想シーンも用意され、青春の夢と現実を映し出していく。くしくも、コナーの兄が最初に「ロックは覚悟を持て!」と語るが、ロックも人を愛することも覚悟が必要。くじけそうになりながら初志を貫こうとするコナーの背中を押し続けた兄が、感動的な青春音楽映画の影の主役でもあった。
(江口由美)
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