原題 | FÚSI |
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制作年・国 | 2015年 アイスランド・デンマーク |
上映時間 | 1時間34分 |
監督 | 監督・脚本:ダーグル・カウリ |
出演 | グンナル・ヨンソン、リムル・クリスチャンスドッティル、シガージョン・キャルタンソン |
公開日、上映劇場 | 2016年7月23日(土)~大阪 シネ・リーブル梅田、8月6日~元町映画館、近日、京都シネマ |
~人を愛することで、はじめて強くなれた男の物語~
男女の間に、無償の愛というのは存在するのだろうか。相手からの見返りを期待することなく、自分が大切に想う人のためにずっと何かをなし続けること…。
フーシは43歳、独身。航空会社の荷物係として、毎日、重いスーツケースや旅行鞄を運んでいる。体重は優に150キロを超える大男。風采も上がらず、シャイで人づきあいも苦手。女性とつきあったこともなく、母親と二人暮し。自分の世界にとじこもりがちで、おとなしいフーシを、若い同僚はやたらかまって、容姿についてひどい言葉でからかう。でも、フーシは、上司からいじめを心配されても、男同士のジョークだと訴えもしない。物事を荒立てるよりは、自分が耐えることを選んでしまう。
目立たず、隅っこで、ひっそりと生きてきた…そんなフーシが、ある日、恋におちる…。母に薦められ渋々行ったダンス教室に参加する勇気もなく、車の中にいると、突然の猛吹雪に、家まで乗せてほしいと教室帰りのシェヴンが声をかけてくる。妖精のようにチャーミングなシェヴンにフーシは一目惚れ。家に送ったのがきっかけで、つきあいが始まる。人懐っこくなったり、冷たくあしらわれたり、シェヴンの態度に戸惑いながらも、気になって仕方がないフーシは、あるとき、シェヴンがこころに問題を抱えていることを知る…。自分の世界に閉じこもっていた頃と違い、不安や迷いもなく、思ったまま、積極的に行動していくフーシ。人を愛することで、どんどん強くなっていく成長ぶりに驚かされる。
印象的なシーンがある。幾日も閉じこもったままのシェヴンの家を訪ねたフーシは、シェヴンが飼っている猫の鳴き声を聞いて、えさをやる。愛する人のこころの声が聞こえるだけでなく、猫の気持ちまでわかるのだろうか。趣味のジオラマに使う戦車や兵士の小さなフィギュアに細かい手作業を加えていくフーシの目を、カメラは大写しにする。丁寧に、忍耐強く作業をこなしながら、フーシのこころの瞳には何が映っているのだろう。懸命に打ち込む姿をみているうちに、言葉を超えて、フーシの心持ち、生き方が伝わってきた。
舞台はアイスランド。ずっと曇天が続く中、フーシの心には、シェヴンの存在が太陽のように光を投げかけていたのだろう。振り回されても、怒ったりいらつきもせず、じっと受け止め、黙々と献身的に尽くす。ものいわぬ寡黙な男の瞳の奥にあなたは何を感じるだろう。ぜひ映画館で、不器用だけれど、とことん優しい男フーシと出会ってほしい。
(伊藤 久美子)
公式サイト⇒http://www.magichour.co.jp/fusi/