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『栄光のランナー 1936ベルリン』

 
       

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作品データ
原題 RACE   
制作年・国 2016年 ドイツ・アメリカ・カナダ
上映時間 2時間14分
監督 スティーヴン・ホプキンス
出演 ステファン・ジェイムス、ジェイソン・サダイキス、ジェレミー・アイアンズ、カリス・ファン・ハウテン、ウィリアム・ハート
公開日、上映劇場 2016年8月11日(木・祝)~TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、8月20日(土)~シネ・リーブル神戸 他全国順次公開

 

 ★ヒトラーの鼻あかした短距離王者

 

陸上競技、中でもトラックの短距離走は“限界への挑戦”を目の当たりに出来るスポーツとして人気が高い。東京五輪(1964年)時代は米国ボブ・ヘイズ、続いて同じく米国のスーパースター、カール・ルイス、近年ではジャマイカのウサイン・ボルトが“世界最速男”として人気を集めている。その元祖がジェシー・オーエンスであることは“陸上通”には知られている。オーエンスは1936年、ナチスが猛威をふるった“ハーケンクロイツ五輪”ベルリンで100㍍、200㍍、走り幅跳び、400㍍リレーの4種目で4つの金メダルを獲得した。カール・ルイス以前の元祖“四冠王”だった。


RACE-500-2.jpgアーリア人種の優位性を誇示しようともくろんだヒトラーの眼前で、皮肉にも圧倒的な黒人パワーを見せつけた。本人にそんな野心はなかっただろうが、たった一人でヒトラーの“根拠ない野望”を叩きつぶしたのだ。




★キング牧師、アリより早い“勝者”

 

アフロアメリカン(黒人)の苦難の歴史は、遠い日本でも怒りを覚えてきた。古くはマーティン・ルーサー・キング牧師が、続いてマルコムXが、さらには目覚めた世界ヘビー級王者モハメド・アリが、差別や偏見と戦い、困難な道を勝ち抜いてきた。差別に憤り、自由を求める人々を描いた映画は“アメリカの良心”でもあった。


数年前、アメリカ映画が描いた「英雄」人気投票で1位に選ばれたのは良心作『アラバマ物語』('62年、ロバート・マリガン監督)のフィンチ弁護士(グレゴリー・ペック)だった。彼は、無実の罪で死刑にされようとした黒人青年をたった一人、体を張って守った。地味だが“英雄的な仕事”が静かな感動を呼んだ。  オバマ大統領の出現で、かつてのような露骨な差別は姿を消したが、白人警官による黒人射殺事件が後を絶たない事態を見ると、まだまだ道は遠いようだ。


RACE-pos.jpgスポーツ映画では、先ごろ公開された『42~世界を変えた男~』が初めてメジャーリーガーになった黒人選手ジャッキー・ロビンソンの“不屈”の精神を謳いあげたのが記憶に新しい。相手球団からのあからさまな差別発言は怒りに震えたが、同じアスリートでも五輪を舞台にした『栄光のランナー~』はよりスケールが大きい。直接戦った訳ではなくとも“敵の親玉”は世界中に恐れられたナチス・ドイツの悪の元凶ヒトラー。最高の大舞台「五輪で勝つ」ことがどれほど大きな意味を持つことか?


オーエンスは、婚約者ルース(ジャニース・バンタン)との間に娘が生まれ、生活のために競技生活を送る。圧倒的強さを誇った彼は言い寄る女性とのゴシップに悩まされたあげく、ルースを怒らせ、最大のライバル・ピーコック(シャミア・アンダーソン)に敗れて失意に沈む。地元に戻ってルースに謝罪し、無事結婚にこぎつける。


一方、米国内ではナチスに反対してベルリン五輪ボイコットを訴える世論が高まっていた。ナチスが迫害するユダヤ人に黒人アジア人も“劣等”とするナチスの人種差別政策はオーエンスにも許しがたいものだった。「全米黒人地位向上協会」からも「出場しないでほしい」と要請され、彼は深く悩む。だが、ライバル・ピーコックのひと言がオーエンスを変えた。彼はけがで五輪を断念しており「五輪に出場してヒトラーの鼻を明かせ」と励ます。出ることが「人種差別政策への抗議」だった。


五輪委員会のアベリー・ブランデージ(ジェレミー・アイアンズ)も「人種差別政策」自粛を訴えるために選手派遣に動き、激論の末、僅差で米国の五輪出場が決まる。オーエンスに朗報だったが、彼には「走っている10秒間だけが自由」だった。すべて雑事を忘れて走れる…肌の色も五輪も無関係、これがアスリートの本心に違いなかった。


ナチスは表面上「人種差別はない」と装おったが、100m走で金メダルを獲得しても、ヒトラーは面会を拒否。それどころか、オーエンスが次々と金メダルを獲得すると、ナチスはブランデージに圧力をかけ「ユダヤ人選手2人の出場を取り止めるよう」働きかける。  一方、ベルリン五輪の記録映画を撮る気鋭の女性監督レニ・リーフェンシュタール(カリス・ファン・ハウテン)は、ナチスの宣伝相ゲッべルス(バーナビー・ベッチェラート)からオーエンスの撮影を禁じられるが、彼女は命令に反して断固撮影を強行。記録映画『オリンピア』は「人種に関係なくスポーツの感動」を後世に伝えたのだった。


RACE-500-1.jpgオーエンスを支えたのはまずコーチのラリー・スナイダー(ジェイソン・サダイキス)。彼もまた、スポーツに情熱を注ぐ人間だった。彼を撮り続けたレニ・リーフェンシュタール監督。そして、五輪会場でオーエンスに救いの手を差し伸べたのが走り幅跳びのドイツ人選手、ルッツ・ロング(デヴィット・クロス)だった。予選でジャンプを失敗したオーエンスに“踏み出し位置”をアドバイスし、平常心を取り戻した彼は首尾よく金メダル。ルッツも銀メダルを獲得し、表彰式ではオーエンスと並んでスタジアムを1周して喝采を浴びた。後の災いも省みず、フェアプレーを見せたドイツ人ルッツのハートもまた感動的だった。


個人の能力が“人の価値を決める”と証明した“オーエンスの五輪”だったが、アメリカ大統領が公式にオーエンスを称えることはなかった。五輪から40年経った1976年にようやく彼はホワイトハウスに招かれ、文民に対する最高の勲章「大統領自由勲章」を授与され、'79年にはホワイトハウスで「リヴィング・レジェンド アワード」(生きる伝説賞)を受賞した。本国でもオーエンスの“戦い”は続いたのだった。

(安永 五郎)

公式サイト⇒ http://eiko-runner-movie.jp/

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