映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

シネマ歌舞伎『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』

 
       

aterui-550.jpg

       
作品データ
制作年・国 2016年 日本 
上映時間 3時間05分
原作 中島かずき
監督 監督:いのうえひでのり 美術:梶尾幸男 衣裳:堂本教子
出演 市川染五郎、中村勘九郎、中村七之助、坂東慎悟、大谷廣太郎、中村鶴松、市村橘太郎、澤村宗之助、片岡亀蔵、市村萬次郎、坂東彌十郎
公開日、上映劇場 2016年6月25日(土)~東劇、新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 ほか全国ロードショー

 

歌舞伎の新時代を拓く☆劇団新感線との初コラボ!
新橋演舞場を揺るがす疾風怒涛の超スペクタクル古代ロマン!!

 

地方の方も歌舞伎を気軽に楽しめるようにと始められた「シネマ歌舞伎」。映画館を新たなステージとして歌舞伎の楽しみ方が広がりを見せた。第一作の『野田版鼠小僧』(2005)を初めて観た時には、その面白さに我を忘れて笑い転げてしまった。今は亡き中村勘三郎を中心に、坂東三津五郎や中村扇雀や中村座の面々の個性を際立たせた野田秀樹の演出は、それまで見たことのない役者たちのコミカルな面を導き、吹っ切れた演技に大喝采を贈った。

aterui-pos.jpg
あれから10年、《シネマ歌舞伎》も新たなステージを迎える。劇団新感線の『阿修羅城の瞳』『アテルイ』『髑髏城の七人~アオドクロ』『朧の森に棲む鬼』などに出演した市川染五郎が、かつて演じた『アテルイ』を歌舞伎の舞台上で歌舞伎役者だけで再演。劇作家・中島かずきの歴史や神話をモチーフにした壮大なエンターテインメントは、いのうえひでのりの演出によって、中村勘九郎や中村七之助などの次世代を担う若き歌舞伎役者の魅力を更に高みへと導く。


昨年8月、新橋演舞場で観劇した際、歌舞伎ファンや劇団新感線のファンが半々に埋め尽くされた場内では、両サイドの花道を使ったスピーディな殺陣やアクションに驚き、歌舞伎役者ならではの大見得を切る場面で笑い、双方のファンが初体験する絢爛豪華で迫力ある面白さに圧倒されていた。口々に「面白かった~!」と興奮冷めやらぬ様子で劇場を出る観客を見て、《歌舞伎NEXT》の新時代の到来を実感した。


aterui-500-3.jpgその大興奮の舞台映像を〈シネマ歌舞伎〉として映画館で観られる。多方向から捉えた役者のアップ映像や、それぞれの想いを同時に描出した編集映像、さらに音響効果や音楽もプラスされ、スピード感もアップした劇的効果をみせた映像は、まるで舞台を独り占めしている感覚で観られる。それを前売り1,800円(当日2,000円)という格安料金で楽しめるのだ。これを見逃す手はない。


aterui-500-2.jpg8世紀末から9世紀初め、奈良の都から京へ遷都して間もない桓武天皇の時代。中央集権国家として国内の平定を急いだ大和朝廷は、未だ与しない東北の蝦夷(えみし)に苦戦していた。幾多の部族毎に平穏に暮していた蝦夷にとって、先祖代々の土地を奪われた挙句苦役を強いる大和朝廷は侵略者でしかない。その頃、都では蝦夷に化けて狼藉を働く輩がいて、それを一人の踊り子・立烏帽子(たてえぼし)(中村七之助)と“北の狼”と名乗る男(後のアテルイ)(市川染五郎)が成敗していた。そこへ若い役人の坂上田村麻呂(中村勘九郎)が駆け付け、3人は運命の出会いをする。


aterui-500-1.jpg後に蝦夷討伐の指揮を執る坂上田村麻呂と蝦夷の指導者となるアテルイは敵対することになるが、立場は違えど「義」を貴ぶ二人は、いつしかお互いを認める義勇の友となる。だが、帝=神というあやかしの存在が「日の国が海の向こうの眠れる獅子に飲み込まれる前に、国を統一して強国にしなければならない」という考えで蝦夷討伐を強行して、悲劇を招くことになる。「義も大儀となると戦になる」、アテルイと田村麻呂の義勇、さらには鈴鹿(七之助が立烏帽子と二役を演じる)や熊子(蛮甲を愛するメスの熊)の純粋な犠牲心といい、現代にも通じる普遍性をドラマチックに魅せる古代ロマンの超スペクタクル巨編。疾風怒濤の如く激動の時代を生きた若者たちの、人間味あふれる義勇心に刺激され、古代ロマンへの想いはつのる一方だ。


(河田 真喜子)

 公式サイト⇒ http://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/

カテゴリ

月別 アーカイブ