制作年・国 | 2016年 日本 |
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上映時間 | 2時間29分 |
原作 | 清水玲子 |
監督 | 大友啓史 |
出演 | 生田斗真、岡田将生、吉川晃司、松坂桃李、栗山千明、織田梨沙、リリー・フランキー、椎名桔平、大森南朋 |
公開日、上映劇場 | 2016年8月6日(土)~丸の内ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹、TOHOシネマズ西宮OS、他全国ロードショー |
★「記憶に潜入する」捜査官って?
人間は不思議な存在だが、中でも脳はまだまだ解明出来ていないらしい。映画やミステリーでも最近は「人間の脳」が“最後の謎”として重要なモチーフになっていて、犯罪以上に興味深い。
アメリカ映画では古典的ラブロマンス『心の旅路』('42年)をはじめ、古くから記憶喪失を題材にした映画が人気を集めたし、最近では「冬のソナタ」をはじめ、韓流ドラマの定番にもなっていると聞く。不思議な脳の働きに注目したのはクリストファー・ノーラン監督の『メメント』('00年)が最初か。妻が殺されたショックで記憶が数分間しかもたない男が、いろんなところにメモを残して記憶をとどめ、犯人を突き止める難作業に挑む。不自由極まりないが、斬新で興味深いクライム・サスペンスだった。
人気コミック原作の映画『秘密 THE TOP SECRET』は、コミックならではの大胆な設定が、観客を物語世界に引き込む。活字世代オヤジとしてコミックは敬遠していたが、これは瞠目すべきアイデアだった。
「死人の脳をスキャンして記憶を映像化する」画期的な捜査方法が開発される、って何と…。警視庁のエリート集団である特別捜査機関「第九」がこのMRI捜査を駆使して、迷宮入りした事件解決に挑む、というのだから科学の進歩は素晴らしい(恐ろしい?)。
最近は警察小説でも、迷宮入りした事件を再捜査する内容が人気だが“直前の記憶”が再生出来るなら手っ取り早い。“自分を殺した犯人”が映るのだから、もう難儀な再捜査など不要。だが、そこには当然、問題もある。記憶の映像には主観が入るため「裁判では使えない」という制約がある。「第九」もいまだ正式な捜査機関として認められていない。
「第九」を率いる室長・薪剛(生田斗真)と新人の青木一行(岡田将生)が手掛けるのは、家族3人を殺してすでに死刑になった男・露口浩一(椎名桔平)の脳を探索して、行方不明の長女・絹子(織田梨沙)を探し出すミッション。ところが、モニターに映し出された露口の記憶映像には、殺された祖母に刃物を振り上げる絹子の姿が映っていた…。
えっ? 犯人は絹子? すでに死刑を執行された露口は冤罪だったのか…。えらいこっちゃ、である。当然、冤罪を認めない検察庁上層部は「第九」の脳内探索による再捜査を却下する。脳内映像を信じる薪たちは露口を逮捕した眞鍋刑事(大森南朋)をチームに引き入れて、絹子の確保に動く。と、事態は急転、絹子が発見されるが、彼女は犯行のショックで記憶喪失になり、事件から3年間、助けてくれた人の世話になっていた、という。一体、何が真実なのか…。
「頭の中を探索する」室長・薪の締まった面構えが画期的な“脳内捜査”の緊迫感を表現する。かつて見たことない刑事像だ。
★「不可解な脳」の映像は幅広くつながる
“磐石の強さ”でチームを引っ張る薪にも、秘めた過去があり、トラウマに苦しんでいた。かつて日本中を震撼させた凶悪犯・貝沼清孝(吉川晃司)は獄中で死んだが、全容解明のために“貝沼の脳”に潜入したメンバーは次々と命を落としていた。一体何が?
最後まで見届けた薪の親友・鈴木(松坂桃李)は錯乱して貝沼の脳を破壊した上、薪に「自分を撃て」拳銃を渡す。薪は言われた通り、親友を撃ち殺したが、今も苦しんでいる。「凶悪犯の脳に潜入する」ことは当然、極めて危険な仕事に違いなかった。
絹子と関係のあった男の居場所を真鍋が突き止めるが、彼の目の前で一人自殺したのをはじめ9人全員がほぼ同時刻に飛び降り自殺したことが判明する。9人はかつて同じ少年院でセラピーを受けており、そのセラピストこそ何と、凶悪犯・貝沼だった。“脳の働き”ネットワークはどこまで広がるのか?
著名な脳科学者を父に持つ絹子と、社会の底辺を生きてきた貝沼がいつどこで繋がったのか、“凶悪つながり”を探るため、薪は監察医・雪子(栗山千明)らの反対を振り切って、死んだ親友・鈴木の脳内潜入を試みる…。
「脳内映像」への潜入は確かに画期的なアイデアだが、思い出したのが“漫画の元祖”手塚治虫氏原作による映画『瞳の中の訪問者』('77年、大林宣彦監督)。負傷で失明危機に陥った女性テニス選手が、天才外科医ブラック・ジャックの執刀で角膜移植手術に成功する。だが、その角膜は湖で殺された女性のもので、それ以来“幻の男”が見えるようになる…。
さすが、かつてSF映画の名作『ミクロの決死圏』('66年)でも映画よりずいぶん早く“体内潜入”のアイデアを漫画化していた手塚治虫氏、脳ではないものの「角膜が映像を記憶していた」という仰天アイデアだった。『秘密 THE TOP SECRET』の脳内潜入はこの発展形。薪捜査官は脳内に5時間も潜入したからただでは済まない。脳から脳へ、直接影響を受け、人格まで変わってしまう。エリート「第九」捜査官でも脳がどんな影響を及ぼすかは、分からない。薪は、脳内という未知の“不気味な領域”に潜り込んでいく…。 “夢のような”MRIスキャナーだが、最先端の研究を調べたスタッフによると「死者の脳を映像化出来る直前まできている」という。決して嘘八百ではないそうだ。
脳内映像は派手なスペクタクルではないが、とてもスリリングで引き込まれる。あどけない少女・絹子の正体は? 薪は貝沼の影響から抜け出せるのか? 近未来、謎に満ちた未曾有の凶悪犯罪VS「第九」の“脳内乱闘”が現実のものになるか? 大友監督らしい“先取りの犯罪サスペンス”だ。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://himitsu-movie.jp/
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