映画レビュー最新注目映画レビューを、いち早くお届けします。

『若葉のころ』

 
       

wakabanokoro-550.jpg

       
作品データ
原題 FIRST OF MAY
制作年・国 2015年 台湾
上映時間 1時間50分
監督 ジョウ・グータイ
出演 ルゥルゥ・チェン、リッチー・レン、アリッサ・チア、シー・チー・ティエン、シャオ・ユーウェイ、アンダーソン・チェン他
公開日、上映劇場 2016年5月28日(土)~シネマート心斎橋、6月11日~元町映画館、今夏京都シネマ他全国順次公開

 

~ビージーズの名曲に導かれ… 秘めた恋、時を超えて~

 
決して若くはない新人監督だが、だからこそ描けるものがある。それは、ジョウ・グータイ監督が青春時代を過ごした80年代前半、台湾が戒厳令下で表現の自由が制限されていた頃の高校生の初恋であったり、夢見たはずの結婚生活が苦い別れを伴うものであったり。懐かしさも、痛みも、はじける水しぶきの音にまでこだわりを見せるぐらい瑞々しい映像で、丹念に描いた作品が、『若葉のころ』だ。
 
 
wakabanokoro-500-1.jpg
 
オープニングからピアノのコンサートの音色が優しく鳴り響く。全編を貫くしっとりとしたピアノの音色。そこに現れる一組の母娘が運命的なすれ違いを果たす夜だ。すれ違う相手は、母ワン(アリッサ・チア)の初恋の相手、リン(リッチー・レン)。その時は何も分からなかった娘バイ(ルゥルゥ・チェン)は、数日後、ワンが交通事故でこん睡状態に陥り、彼女のパソコンから発見した未送信メールで、リンの存在を知る。母がリンに綴った17歳の頃の思いは、現在17歳で恋に悩む青春まっただ中のバイを揺り動かしていく。
 
 
wakabanokoro-500-2.jpg
 
2つの時代が同時並行する物語は、現代のバイの三角関係の恋愛や、同居する祖母や離婚した父との関係、母への思いなど複雑な心境が映し出されるだけでなく、社会的な成功は治めながらも、孤独なリンのすさんだ様子をスタイリッシュに描写する。一方リンが実家の部屋で思い出のLPレコード(ビージーズのベスト盤)を見つけたことから、高校時代を思い出すくだりでは、高校時代の内気な女子高生ワンをルゥルゥ・チェンが一人二役で演じ、丸坊主の男子高校生リン(ルゥルゥ・チェン)との不器用で純粋で、ある事件をきっかけに離れ離れにならざるを得なかった「短い春」を優しく映し出す。グイ・ルンメイ主演の『GF*BF』(12)でも描かれた80年代の高校のエピソードは、やはり興味深い。男子、女子と分けて昼休みまで保管されたお弁当から、ワンのお弁当を探し出して早弁するようなたわいもないイタズラから、指導室に侵入し、先生に没収された発禁本やレコードを盗み出して、屋上から円盤のように投げてワイワイ騒ぐなど、実話を元にしたのでは?と思うようなエピソードが心憎い。歌詞を訳したレコードを渡し、牛歩のように少しずつ近づいた二人の距離、ほんの一瞬のハグが、永遠に二人の心に残っていく。誰の心にもあるセピア色の輝ける思い出だ。
 
 
wakabanokoro-500-3.jpg
 
香港映画界のスター、リッチー・レン(『ブレイキング・ニュース』『奪命金』)の渋い魅力もさることながら、能年玲奈を彷彿とさせる一人二役のヒロイン、ルゥルゥ・チェンがとにかく可愛い!現代版もさることながら、17歳の頃の母親役のときは、ちびまる子ちゃんのような「ぱっつんおかっぱヘアー」も披露。ミュージックビデオやCM製作などを長年手がけてきた監督らしく、女優を美しくみせる術を心得ているのがよく分かる。17歳のリンを演じるシー・チー・ティエンもずっと心に残るなと思ったら、本作と『私の少女時代 -Our Times-』(OAFF2016で上映、原題『我的少女時代』)で注目され、既に主演作が決まっているという台湾の若手注目株なのだとか。将来台湾映画界を担うこと間違いなしの新星を起用し、過去の初恋を懐かしく思う世代だけでなく、今は今なりに恋に悩む若者たちに「一瞬が永遠になる愛もある」ことを伝える。胸の奥に眠る、とてもピュアな部分をそっと見せてもらったようなラブストーリーに、心が揺れた。
(江口由美)
 
wakabanokoro-500-4.jpg
 
(C) South of the Road Production House