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『ブルックリン』

 
       

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作品データ
原題 Brooklyn
制作年・国 2015年 アイルランド=イギリス=カナダ 
上映時間 1時間52分 
原作 コルム・トビーン
監督 監督:ジョン・クローリー  脚本:ニック・ホーンビィ
出演 シアーシャ・ローナン、ドーナル・グリーソン、エモリー・コーエン、ジム・ブロードベント、ジュリー・ウォルターズ
公開日、上映劇場 2016年7月1日(金)~TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)、OSシネマズミント神戸 他全国ロードショー
受賞歴 ★第88回アカデミー賞®主要3部門〈作品賞、主演女優賞、脚色賞〉ノミネート★

 

ひとりの内気な少女が、洗練された女性へと成長する姿を丹念に。
静かな共感が心に満ちていく、愛と人生のドラマ。

 

アイルランド人作家コルム・トビーンが、イギリスの文学賞コスタ賞を受賞した同名原作小説を、「ダブリン上等!」「BOY A」(アンドリュー・ガーフィールドの出世作)で知られるアイルランドのジョン・クローリー監督が映画化。脚色のニック・ホーンビィは、近年、脚本家としても脚光を浴びるイギリスの人気小説家。さらに、主要な配役もイギリス、アイルランド勢で固めている。アイルランド移民女性が主人公のこの作品に対する思い入れの熱が伝わってくるし、アイルランド人歌手イアーラ・オー・リナードのケルト語の歌には、まったく心を揺さぶられた。


brooklyn-500-4.jpg1950年代、景気の低迷するアイルランド。閉鎖的な田舎町で息の詰まる日々を送っていた内気な少女エイリシュ(シアーシャ・ローナン)に、自分には果たせないだろう夢を託して新天地アメリカへと送り出す姉のローズ。出発前夜、姉妹の別れのシーンは見どころの1つで、交わす言葉の1語1語を、情感こめて演じた2人の女優にすっかり魅了されてしまった。このプロローグに続くのは、ユーモアもちりばめたリアルなエピソードの数々(アイルランド・カラーの緑色のコートを着た田舎娘の船旅は、ちょっとした冒険談)。当時、戦勝国アメリカは高度成長期。アメリカン・ドリームを夢見た移民の暮らしぶりも描かれるのだが、アップタウンのマンハッタンが舞台のトッド・ヘインズ監督作『キャロル』との“格差”を目の当たりにさせる。こんな具合に、要所適宜のサジ加減でホーンビィのセンスは光彩を放つ。


brooklyn-500-1.jpg自身の小説では大人になりきれない男性を好んで描くホーンビィの脚本作品4本のうち、3本が女性映画でいずれもアカデミー賞候補と評価は高いが、小説ファンのひとりとしてはなんだろうな、この微妙な気分…。ひとつ言えるのは、完璧じゃない人間(つまりすべての人間、ですね)を描き続けてきたホーンビィの、キャラクターに向ける温かい視線(ウィットに富んでいます)なしでは、この映画のヒロイン、エイリッシュにふんしたシアーシャ・ローナンの輝きも半減していただろうということ。NYに生まれアイルランドに生活の拠点を置くシアーシャにとって、自身の半生とも重なるヒロイン像は、間違いなく彼女のキャリアを高める特別なキャラクターになるはず。


brooklyn-500-3.jpgアイルランド移民たちが多く暮らすNYの下町ブルックリンで、口やかましいが愛情深い寮母、面倒見の良い同郷女性たちに囲まれて新生活をスタートさせたエイリシュがホームシックになるくだりを、姉からの手紙を何度も繰り返し読む姿で表現しているが、ありがちとも思えるこの場面を1ミリもあざといと感じさせずに旅情をそそる。主人公とともに、郷愁にかられる私も人生の旅の途中…。


brooklyn-500-2.jpgアメリカで人生を切り開こうとするイタリア系のトニー(彼がデート映画に選んだ「静かなる男」はアイルランドが舞台)。故郷に踏みとどまらせようとする生粋のアイルランド人のジム(ドーナル・グリーソン)。2つの愛、2つの国あるいは、過去と未来のはざまで思いを揺らす彼女が、人生を共に生きる相手にどちらを選ぶのか。人生の岐路に立ったヒロインの恋の行方…この映画のハイライト(ともいえる)でも、これほど抑制を効かせていながら感情に深く響くという境地へ至るのだから見事というほかない。そもそもこのドラマ、いかにもな展開とは無縁の地味なストーリーラインとはいえ、物語を語るのは登場人物たちという力点を心得たシアーシャの繊細な演技が素晴らしく、一瞬たりとも目がはなせない。ひと言でいうなら青春映画の至宝。


(映画ライター:柳博子)

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