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『ファブリックの女王』

 
       

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作品データ
原題 ARMI ALIVE!
制作年・国 2015年 フィンランド
上映時間 1時間25分
監督 ヨールン・ドンネル
出演 ミンナ・ハープキュ、ラウラ・ビルン、ヨアンナ・ハールッティ、アンナ・パーヴィライネン他
公開日、上映劇場 2016年5月28日(土)~シネ・リーブル梅田、6月4日(土)~京都みなみ会館、6月11日(土)~元町映画館他全国順次公開
 

~「従うべきは美のみ」ファッション、ライフスタイルに革命を起こしたマリメッコ女性創業者の破天荒列伝~

 
日本での北欧ファッションの火付け役であるマリメッコ。とはいえ、そのイメージといえば代表的なケシの花柄(ウニッコ)ぐらいで、実は何も知らなかったことに改めて気付いた。マリメッコの創業者アルミ・ラティアがフィンランドから送り出したテキスタイル、ファッションの数々を観て、どれほど心躍るかと思ったら、それ以上に壮絶な彼女の人生が迫ってくる。男社会のファッション業界へ果敢に挑み、ファブリックで世界を変えるパイオニアとなった経営者としてのアルミの顔だけでなく、愛を求め、裏切られ、家族からも孤立していく一人の女性としてのアルミの顔も捉え、ドラマチックな人生を劇中劇に込めた。戦後ファッションの常識を刷新した女王物語の幕が上がる。
 
 
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1912年生まれ、ヘルシンキのデザイン学校で学んだ後20歳で結婚したアルミは、35年に織物工房を立ち上げたものの数年後に閉鎖。第二次世界大戦で実弟らや家を失う。どん底から立ち上がり、51年にマリメッコ社を立ち上げてから、ラティアは才能あるデザイナーを集め、斬新なデザインのテキスタイルと、体型を選ばないシンプルなフォルムのファッションを提案していく。ヘルシンキで初めてファッションショーを開催、それまでの上流階級ファッションにはない開放感がたちまち注目を集めた。体のラインを見せるために無理やりコルセットで絞っていた女性を“解放”したのだ。
 
 
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働き方という面においても、女性デザイナーやスタッフを多数登用し、女性経営者として男社会にも臆せず飛び込み、大国アメリカにマリメッコらしい“シンプル・タイムレス・ユニセックス”なファッションで堂々と勝負した。従業員たちが共に住み、働ける「マリメッコ村」の構想も進めていたという。従業員を家族のように面倒を見、出費も惜しまなかったアルミは、別の角度から見れば破産と隣り合わせであり、家族との距離は広がるばかり。仕事に成功しても愛に飢えるアルミは、単なる男まさりではなく、女性らしい欲求も合わせ持っている様子が、舞台劇を通じて情感豊かに描かれる。単なるドキュメンタリーでは表しきれないアルミの複雑な内面を、女優ミンナ・ハープキュが自分の解釈で演じ、波瀾万丈の人生が実感をもって迫ってくるのだ。
 
 
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初めてのファッションショーや、アメリカでのプレゼンテーションなど、マリメッコのテキスタイル&ファッションがこんなに多彩であったことにも感動を覚える。見ているだけで元気になるファッションではないか!特に驚いたのは、今や誰でも一枚は持っているボーダーTシャツもマリメッコ発であったこと。劇中でボーダー柄の商品を見たアルミが、綿ではなくメリヤス地のボーダー柄に拒否感を露わにするが、「店頭でとてもよく売れている」との言葉にあっさりと受け入れるシーンがある。こだわりはあれど、こだわりすぎない。過去の成功ではなく、今の動きに柔軟に対応する姿勢はさすがだ。美にこだわり抜き、理想を追い続けたアルミに招かれ、マリメッコの役員を務めたヨールン・ドンネル監督。その生き様を単なる自伝ではなく、新しい形で見せたところも、新しい感性や才能を育て続けたアルミの姿勢と重なった。
(江口由美)
 
公式サイト⇒http://www.q-fabric.co
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