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『サウスポー』

 
       

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作品データ
原題 Southpaw 
制作年・国 2015年 アメリカ 
上映時間 2時間04分
監督 アントワーン・フークア(『トレーニング デイ』) 【主題歌】:エミネム「Phenomenal」(ユニバーサル ミュージック)
出演 ジェイク・ギレンホール(『ナイトクローラー』)、フォレスト・ウィテカー(『大統領の執事の涙』)、レイチェル・マクアダム ス (『君に読む物語』)
公開日、上映劇場 2016年6月3日(金)~TOHOシネマズ楳田/TOHOシネマズ難波/TOHOシネマズ二条/T・ジョイ京都/神戸国際松竹/TOHOシネマズ西宮OS、他全国ロードショー

 

★必殺の左パンチ!  最愛の娘を取り戻すための最終兵器

 

スポーツの醍醐味は野球の満塁ホームランのような“一発大逆転”のスリルと快感にある。逆転サヨナラ勝ちならなおこたえられない。ラグビーやアメフトでも逆転はあり得るが、1点ずつしか取れないサッカーでは難しい。格闘技ではどうか。柔道やレスリングの鮮やかな“逆転一本”も痛快だが、最高はボクシング、敵を一発でぶちのめす大逆転KO、これに勝る快感はないだろう。
 

Southpaw-500-1.jpg『サウスポー』はどん底まで落ちた男が「夢よもう一度」と這い上がる熱のこもった感動編。ふだんからトレーニングを欠かさないという“ボクシング好き”のアントワーン・フークア監督と“スタントなし”俳優ジェイク・ギレンホールが初タッグを組んだ本物テイストのボクシング映画だ。ニューヨークの養護施設出身でボクシングの聖地マデイソン・スクエア・ガーデンまで上り詰めた実在の世界ライトヘビー級王者ビリー“ザ・グレート”・ホープの物語。栄光から転落して金も、愛する家族も失い、すってんてんになった男の“敗者復活戦”は熱く、スリリングだ。


Southpaw-500-2.jpg無敗のファイター、ビリーは打たれれば打たれるほど燃える男。怒りをバネに猛烈な逆襲に転じる。彼の頭にディフェンスの言葉はない。映画の冒頭でも追い込まれながら終盤、強烈な右が炸裂して逆転KO、43戦無敗の驚異的な記録を樹立する。世界ライトヘビー級王座は不動だった。彼と同じ養護施設出身の孤児でビリーの妻モーリーン(レイチェル・マクアダムス)も祝福するが、娘レイラ(ウーナ・ローレンス)だけは顔に出来た傷を数えて「打たれ過ぎ」と不満を漏らす。


無敗の王者に、敏腕マネージャーが3000万㌦のギャラの契約を持ち込む。「このまま闘い続けたら廃人になる」と危惧するモーリーン断ることを勧めるが、ビリーは耳を貸さない。養護施設のチャリティーパーティーに招かれたビリーが苦手なスピーチを終えた時、同じ階級のエスコバールから「女房もベルトも頂く」と挑発され、怒り心頭、双方の仲間たちも加わって大乱闘。揉み合いになる中、誰かの銃が暴発し、弾はなんとモーリーンの腹部に命中する…。

 

★日本にも実在した伝説の“強打のサウスポー”


最愛の妻の不慮の死を受け入れられず、自暴自棄に陥るビリー。豪邸はローンが払えず、税金も滞納。身も心もボロボロになるのも無理はない、か。愛娘レイラから「パパが死ねばよかったのに」とまで言われる始末。すべてをなくした男は、レイラまで施設に取り上げられてしまう。“天国と地獄”を味わった男はどのようにして再起するのか? 


Southpaw-500-4.jpgハングリー・スポーツの代表格、ボクシングは切羽詰まった“男のドラマ”になる。貧困からの脱却=栄光と金もうけが裏表、これほど見事に明暗が分かれるスポーツも珍しい。だから数多いボクシング映画は、ほとんどが悲愴感を漂わせて人気が高い。


シルベスター・スタローンの代表作『ロッキー』シリーズは時にハッピーだが、ジョン・ヴォイト主演の名作『チャンプ』(79年)は泣かせる映画の代表。こちらは息子と二人暮らしの元ボクサーが“息子の夢”を叶えるため、自分にムチ打ち、気力を奮い立たせてリングに立つ。ボクサー出身の俳優ガッツ石松自ら監督、脚本、主演の三役を務めた『カンバック』(90年)もまた、兄が背負った借金返済のため、かつての宿敵を相手に戦う。安部譲二原作だが自分の姿もWらせた内容でもあった。最後、主人公(ガッツ)が鮮やかな一撃で勝負を決め、そのまま息絶えるラストが印象的に残った。
 

筆者が小中学生だった60~70年代、ボクシングの世界タイトル戦に熱狂し、テレビの前に釘付けになった。その頃、日本にも伝説的な“強打のサウスポー”が実在した。オールドファンならご存知、ファイティング原田、海老原博幸、青木勝利は“フライ級三羽烏”と呼ばれ、プロレス、力道山に続く時代の国民的ヒーローだった。先ごろ、ドキュメンタリー映画『ジョーのあした』で来阪キャンペーンを行った現役ボクサー、辰吉丈一郎も“フライ級三羽烏”の話になると目を輝かせたものだ。中で誰か一人と言えば“カミソリ・パンチ”の異名を取った海老原博幸だった。


ファイティング原田はラッシュに次ぐラッシュで打ちまくるスタイルで興奮させ、多くの期待通り、何度も世界タイトルを獲得した。実績も名前も上だったが、鮮やかな“逆転KO”で熱狂的な支持を集めたのは海老原だった。63年11月まで、国内歴代3位の29連勝(1分け、16KO)。世界戦を除いた戦績は実に62戦61勝(1敗)というマンガみたいな驚異的戦績が残る。ライバルで後に親友になったファイティング原田氏も「海老原は天才だった」と高く評価している。


海老原氏がどのような人生を送ったのかは知らないが、ハードパンチャーの宿命として、拳の骨折を7度も繰り返し、そのために世界王者として目立つ記録は残せなかった。実在の“サウスポーの強打者”は91年に肝機能障害が原因で51歳の若さで亡くなった。そこにはやはり悲劇の匂いがある。原田氏は大ショックを受けて「泣きまくった」と早すぎる死を悼んだという。


Southpaw-500-3.jpgアメリカ映画『サウスポー』は“敗者復活”映画だ。どん底まで落ちたビリーは、かつて自分を苦しめたボクサーを育てたトレーナー、ティック(フォレスト・ウィテカー)を訪れ、ジムの掃除夫の仕事をもらって“再起”へのスタートを切る。ティックはビリーにグローブを着けさせず「お前の短気は命取りだ」と罵詈雑言を浴びせて根本精神から鍛え直す。そんな厳しい試練を耐えさせたのは「愛娘レイラに会いたい」思いにほかならなかった。

 
「人と人が殴りあう」人間の根元的な闘争本能に根差したボクシング。辰吉も「息子が殴りあうのを喜んで見る親はいないでしょう」という。だが「戦う親の姿を見せる」のもボクサーしか出来ない“業”なのかも知れない。

      (安永 五郎)

公式サイト⇒ http://southpaw-movie.jp/

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