制作年・国 | 2015年 日本 |
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上映時間 | 1時間39分 |
監督 | 小林 茂 |
公開日、上映劇場 | 2016年4月16日~第七藝術劇場、5月14日~神戸アートビレッジセンター |
~囲炉裏や炬燵のあったかさと、人の笑顔のぬくもりが伝わる~
新潟県の古民家に住み始めて約15年を迎える小暮さんを中心に、雪深い山村で暮らす人々の生活を淡々と追ったドキュメンタリー。都会から移り住んだ人々と、村で生まれ育った人とがゆるやかにつながり、暮らしの術を伝授し助け合いながら暮らしている。
半年近くも雪に囲まれ、積雪3メートルを超える豪雪地、越後妻有(つまり)の山里。雪かき一つとっても、大仕事で、ひとりでは生きていけない。映画は、自然の厳しさをことさら強調することもなく、かといって、田舎暮らしを美化することもしない。大変なことも、楽しいことも、丸ごと切り取っていく。その土地に生きる人々の姿がさらりと差し出される。
説明も解説もほとんどなく、説明的な映像もない。雪かき、田植え、茅葺きと、いろいろな風景が切り取られていく。祭りのシーンも唐突に挿入され、脈絡を意識していないかのように一見思える映像のつなぎとさりげない描写ゆえに、観客は、いつのまにか、この映画の中の人達と一緒に、村で過ごしているような気持ちになる。心に残るのは、体験そのもの。囲炉裏や炬燵のあったかさや、汁料理の湯気。歌ったり、酔っ払ったり、語りあったり、田んぼで汗して働いている、生き生きした表情だ。
ラスト近く、山あいの集落を照らす太陽の光の変化を刻々ととらえた長回しの映像を早送りにしたシーン。そのとき聴こえてくる「めざめのとき」と名づけられた音楽に、それまで映画を観ているうちに心の中に降り積もっていった、言葉にできない感情が一気にあふれ出した。山里で生活してきた人々の生の営みの尊さと輝きが心に迫り、圧巻。
2012年の新潟・長野県境地震のため、取り壊すことになった古い茅葺きの家に住む老夫婦の姿が忘れられない。柱時計の音、長作爺さんの背中、身支度するおばあちゃん。歴史ある家が壊される映像に心が痛んだが、新緑の中で舞う二匹の蝶や、ヤギの鳴き声、映画に登場する人達のほっこりした笑顔が、力強く希望を伝える。
目立たないつくりだが、この感銘は映画でなければ得られないもの。名作『阿賀に生きる』(1992年)、『阿賀の記憶』(2004年)のスタッフたちが5年の歳月をかけてつくりあげた珠玉の作品。ぜひ映画館で観てほしい。
(伊藤 久美子)
公式サイト⇒ http://kazenohamon.com/