原題 | The Sea of Trees |
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制作年・国 | 2015年 アメリカ |
上映時間 | 1時間51分 |
監督 | ガス・ヴァン・サント(『マイ・プライベート・アイダホ/旅立ち』『エレファント』『サイコ』『ミルク』『プロミスト・ランド』) |
出演 | マシュー・マコノヒー(『ダラス・バイヤーズ・クラブ』『インターステラー』『リンカーン弁護士』),ナオミ・ワッツ(『21グラム』『キング・コング』『マルホランド・ドライブ』),渡辺謙(『ラスト・サムライ』『硫黄島からの手紙』『許されざる者』) |
公開日、上映劇場 | 2016年4月29日(金 祝)~TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS) 他全国ロードショー |
~意外にも,しんみりと肩の荷が軽くなる~
ガス・ヴァン・サント監督の新作は,富士山の北西に広がる青木ヶ原の樹海が舞台となっている。アーサーは,自殺の名所だという噂に導かれるように,人生の終着点を求めてアメリカからやって来た。そして,樹海をさまよう日本人タクミと出会い,妻ジョーンと過ごした時間を振り返る。アーサーは,絶望でも悲しみでもなく,罪の意識から樹海に足を踏み入れた。ここで描かれる樹海は,正しくカトリック教会の教義にいう煉獄であった。
アーサーがアメリカから持参したジョーン宛の封書は,遺書のようだが,それにしては分厚い。彼が懐から取り出した錠剤は,毒薬のようだが,それを飲んでもふらつくだけで死なない。あれこれと疑問符が頭の中に積もっていく。そして気付けば,アーサーは,死出の道行きではなく,生きるためのサバイバルへと踏み込んでいた。彼は,途中で人生を見失い樹海をさまよっていたが,そこで生きる道を見出し樹海の出口を求めて歩き続ける。
樹海は,アーサーが自らの罪を償い清めて天国に入る場所であった。どのような罪を犯したかは,ジョーンとの結婚生活のシーンで描かれる。魔が差して浮気をしたことから夫婦の間に亀裂が入るが,ジョーンの病気と手術を経て,というように人生には大きな起伏がある。彼が思い詰めて青木ヶ原まで来たこと,そこから必死になって抜け出そうとしたことなど,最後には全てが腑に落ちた。ラストで広がる光景は,夜明けであり希望である。
青木ヶ原,自殺という響きから,暗く憂鬱な印象を受けるが,さすがはガス・ヴァン・サントである。コロンバイン高校銃乱射事件を基にした『エレファント』('03)では,その悲惨なテーマから予想できないほど,透明感のある瑞々しい映像美に圧倒された。それぞれの登場人物の視点を,巧みに絡み合わせた語り口にも魅了される。本作では,ミステリアスな展開に目が離せなくなり,いつしか監督に導かれて清められるようなラストに行き着く。
(河田 充規)
公式サイト⇒ http://www.tsuiokunomori.jp
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