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『孤独のススメ』

 
       

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作品データ
原題 Matterthorn 
制作年・国 2013年 オランダ 
上映時間 1時間26分
監督 ディーデリク・エビンゲ
出演 トン・カス、ルネ・ファント・ホフ、ポーギー・フランセン、アリアーヌ・シュルター、ヘルマート・ウォウデンベルフ、エリセ・スハープ、アレックス・クラーセン他
公開日、上映劇場 2016年4月9日(土)~新宿シネマカリテ、4月23日(土)~シネ・リーブル梅田、5月14日(土)~京都シネマ、順次公開~シネ・リーブル神戸ほか全国順次公開

 

四角四面の男と社会からはみ出た男が出逢った時、
  奇想天外の人生模様が動き出す

 

しかつめらしい顔の男がひとりぽつんと列車の座席に座っているチラシの写真を見て、アキ・カウリスマキ監督作品だと言われても「あ、そうだろうな」と信じたことだろう。で、映画を観ている間も、どうもその雰囲気に近いものを感じて、私的にはああいう何とも言えないおかしみ、少ない台詞と台詞の間の沈黙から立ち昇ってくるおとぼけ感が好きだから、ついふふふと笑ってしまった。だが、実はオランダ出身のこれが長編デビュー作の監督である。「巧い!」と膝を叩きたくなるぐらい、登場人物それぞれの像を鮮烈に印象づけ、また、人生ドラマとしての面白さにも配慮した出来映えだ。


kodokunosusume-500-3.jpg映画は、そのしかつめらしい表情を顔に張り付けているフレッドが、美しいけれど眠たくなるような田園風景の中をバスに揺られて自宅に帰ってくるところから始まる。やがてすぐにわかるのだが、彼はひとり暮らし。妻に先立たれ、大きな期待をかけていた息子は家を出てしまったということが、もう少し後でわかってくる。彼の毎日は、どうやら金太郎飴、来る日も来る日も判で押したように全く同じ、夕食の献立も同じ、午後6時の時計の合図を待ってお祈りしてから食事を始めるというのも同じ。規律正しいというべきか、味気ないというべきか。ご近所とのトラブルなど一切あるわけがなかった…“その男”が現れるまでは。


kodokunosusume-500-1.jpgほとんど会話もできず、身元もわからない男との共同生活に、さらに二人組でのお仕事受注という、これまでのフレッドの想定範囲を遥かに超えた変化が見られたのは、フレッドが他人には言えず、たぶん本人も認めたがらない孤独感を抱えていたからだろう。羽目を外すなんて出来なかったフレッドなのに、風変わりな友情あるいは連帯感のせいで、どんどん変わっていく。そして、これまで封印していた息子との過去を見つめ直し、自ら接触しようとするのだ。


kodokunosusume-500-2.jpg邦題の『孤独のススメ』というのには、ちと頭を傾げるが、原題はアルプス山脈の『マッターホルン』で、それはフレッドの過去と未来を結ぶ重要な役割を担っている。ひょんなことからでも人は変わることができる、抑圧を取り除いて本人も知らなかった自分自身を見つけることができるんだと感じさせる結末がすがすがしい。劇中で“ある人物”が朗々と歌い上げる『This is my life』の意味するところも映画の本質にダイレクトに絡み、思わず聞き惚れてしまった。

(宮田 彩未)                                                                                                                      

公式サイト⇒ http://kodokunosusume.com/

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