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『グランドフィナーレ』

 
       

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作品データ
原題 YOUTH
制作年・国 2015年 イタリア、フランス、スイス、イギリス 
上映時間  2時間4分
監督 脚本・監督:パオロ・ソレンティーノ(『イル・ディーヴォー魔王と呼ばれた男-』『きっと ここが帰る場所』『グレート・ビューティ/追憶のローマ』)、 撮影監督:ルカ・ビガッツィ(ソレンティーノ監督とは6作目のコラボ)、 音楽:デヴィット・ラング
出演 マイケル・ケイン、ハーヴェイ・カイテル、レイチェル・ワイズ、ポール・ダノ、ジェーン・フォンダ、スミ・ジョー、パロマ・フェイス、ヴィクトリア・ムローヴァ他
公開日、上映劇場 2016年4月16日(土)~新宿バルト9、シネスイッチ銀座、Bunkamura ル・シネマ、シネ・リーブル池袋、立川シネマシティ、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、T・ジョイ京都、シネ・リーブル神戸ほか全国順次公開

 

~一つ一つのシーンに凝縮されたものが、映画を観るという至福感の前線に導く~

 

“映像の魔術師”などという表現はあまりにも多く使われ、刺激も興味も起こさなくなった。イタリアの宝、フェデリコ・フェリーニの継承者とも呼ばれるパオロ・ソレンティーノ監督に対しても、もうそんな手垢のついた平凡な言葉を贈るのは止しておこう。ただただ目を見開いて、この映像にどっぷり浸かってほしい。大きく開いた目から入った映像は、心臓の奥にある各人の秘密の小箱にす~っと取り込まれ、そして震える。いつまで震えているかは各人次第だが、何かとてつもなく美しいものと出逢ったという記憶は残り続けるだろう。


GF-500-1.jpg舞台装置であるホテルのたたずまいからしてワクワクさせられる。アルプス山脈の麓に建つレトロな雰囲気のこのホテルは、トーマス・マンが『魔の山』を書いた場所だという。そこで繰り広げられるのは、いわば“グランドホテル”スタイルの物語。主人公は、作曲とオーケストラの指揮で名を馳せたイギリス人音楽家フレッド(マイケル・ケイン)だが、今は引退して、各界のセレブが優雅な時を過ごしているこのホテルに身体を預けている。その親友がハリウッドの映画監督ミック(ハーヴェイ・カイテル)で、彼の方はまだ精力的に新作映画の構想をこのホテルで練っている真っ最中。そんなある日、フレッドにイギリス女王からの勲章授与と出演依頼の話が舞い込むのだが、彼は頑としてそれを断る。その理由とは…?


GF-500-3.jpg牧草地で、牛の鳴き声とカウベルを楽器代わりにフレッドが指揮する場面は印象的だ。音楽から遠ざかりながらも、音楽と切れない、それは、表現者として人生を歩んできた人ならではの性(さが)だ。華やかな舞台を思わせる完璧な構図と共に、この映画の魅力の一つはやはり音楽である。フレッドが書いた『シンプル・ソング』が演奏されるクライマックスはむろんのこと、ホテルの敷地内で繰り広げられる音楽ライヴのシーンも、実に心地よく耳を刺激してくれる。


GF-500-2.jpgフレッドとミックの掛け合いみたいな台詞が面白く、そこに若きハリウッド・スターのジミー(ポール・ダノ)の、世の中を斜に見るような台詞が絡み合って、ある種、人生談義の色を帯びてくる。さらに、娘のレナ(レイチェル・ワイズ)に起きたショッキングな出来事と共に、彼女から糾弾された過去のことが連動し、「自分の人生とは何だったのか」と自らに問い続けるフレッド。残り少なくなった時間を考え出す世代には、彼の悩みがとてもよく理解できる。そうして、物語はフレッドにもう一度人生を取り戻させるため、衝撃的な展開を用意するのだ。マイケル・ケインとハーヴェイ・カイテル、さらにけっこう過激に登場するジェーン・フォンダなど名優たちの競演を楽しみながら、とても贅沢なひとときを味わった。

(宮田 彩未)

公式サイト⇒ http://gaga.ne.jp/grandfinale/

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